努力しても幸せにはなれません

勝間さん、努力で幸せになれますか

勝間さん、努力で幸せになれますか

書名:勝間さん、努力で幸せになれますか
著者:勝間和代, 香山リカ


■評価:良
  情報:△ 新規性:△ 構成:○ 日本語:○ 実用性:◎
  難易度:普 費用対効果:◎ タイトルと内容の一致:◎
  お勧め出来る人・用途 :幸せの定義に疑問を持っている人・本当の幸せとは何かを考察する
  お勧めできない人・用途:努力しないで幸せになりたいと思っている人・自分を肯定してくれる発言を探し求める


■所感
 二人の議論は、出発点では噛み合っているが、次第に認識(というよりは信念)の相違が目立ち始め、最後にはほとんど平行線のまま終了する。
 結局の所、2人の間では人間の可能性に対する見解が180度違うのである。
 人は努力次第で必ず能力を身につけることができると信じているのが勝間さんで、「努力」なんてものは才能で、出来る人は出来るかも知れないが、出来ない人は逆立ちしたって出来ないから、努力しないと「幸せ」になれないと決めつけられたら、もうどうあがいても「幸せ」にはなれない人がいる、という立場をとっているのが香山さんである。


 この問題に対する私の態度は簡潔にして明解。

努力しなければ「成功」しないが(努力は成功の必要条件)、努力しても「成功」できるとは限らない(努力は成功の十分条件ではない)。
「成功」に関しては、努力は当然として、あとは小飼さんが主張するように、完全に「運」の問題である。
しかし、「成功」している人が「幸せ」であるとは限らず(「成功」は「幸せ」の十分条件ではない)、「幸せ」な人が皆「成功」しているとも限らない(「成功」は「幸せ」の必要条件でもない)。


従って、まずは、自分の「幸せ」が「成功」を必要としているかを見極めること。
そして、もし「成功」を求めるならば「努力」をすること。
しかし、結果は左右できないのでその場合は努力はするが結果は求めない「放擲の精神」で臨むこと。
仮に人智の及ぶ範囲で精一杯のことを行おうとするならば、こういうことになる。


 勝間さんが主張されているように、教育の充実は急務であるが、だからといって、それで全ての問題が解決するわけではない。
 しかしだからといって、香山さんのおっしゃっているような「努力なんかまったくしたくない人」を全てそのままの状態で丸抱えできるほどこの世界のキャパシティは大きくない。
(私はどちらかといえば後者だが、誰にも依存したくないので、そのために必要最小限の「努力」をしている)


 結局、この中でオールハッピーな社会を作ろうと思うと、私が学生時代に考えていたような、「ノーブレスオブリージ」と「尊敬」の関係で成り立つ緩やかな「階層社会」に行き着くのだという話の展開をみて、「やはりそれ以外には解はないよな」と勝手に納得していた。
 「2:8の原則」はどうしようもないから(更に供給過剰な現在の日本のような成熟社会においては小飼さんが指摘されているように、6の人の中途半端な努力はむしろ過当競争のもとになるので迷惑だという事実もあるから)、後は、2と6と2の関係をどのようにするか、という問題に行き着く、というわけである。


 本書には「社会契約」の抱えている本質的な矛盾(「でも私が譲られる時は一生来ないかも知れないじゃない」という単純だが反駁の難しい批判)についてなど、社会の制度設計の根幹に関する議論の軸となる争点がいくつも含まれている。
 また、個人の「幸せ」についても、「社会的成功」「報酬」「お金」「結婚」「子供」など全ての人が興味関心を持つような事柄について、価値観が全くことなる2者による議論が展開されているため、対立軸が非常に解りやすい。
 

 自らの人生、特に「幸せ」について考えたい人(たぶんほとんど全ての人)にお勧めしたい1冊。


■読了日
2010/02/12