ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書)

ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書)

書名:ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか
著者:梅田望夫


ようやく読了。
せっかくサイン本を頂いたのに、今の今までまったく手を付けてこられなかった。
恐らく「はてな」の営業的には大誤算、なのだろうけど、私はコマーシャリズムには与しない立場なので(そもそもサイン本を頂くことになったブログ記事にそう書いてある)、少しも悪びれずに堂々とこう書かせていただく。


まあ、その経緯はどうでもいいとして(よかないよ、はてなから抗議がくるかも知れないんだよ)<まあ、いいじゃないの>、本の感想を。
まず、良書か悪書かと言えば、問題なく良書である。


1つ、梅田氏に関して勘違いしていた点があるのでこの場を借りてお詫びする。
私は『Web進化論』以降、梅田氏が次々と本を出版していることに関して、ああ、この人も「売れる時に売っておこう」型のもの書きなのだな、とやや失望を感じていた。
しかし、本書の中で説明されている通り、ここ数年は書くことに専念するというのが梅田氏の(『Web進化論』出版以前からの)戦略であり、それを実践されていたということだったのである。
加えて思い返してみるに、出版された本が対談本も含めてそれぞれ示唆に富み、非常に情報量が多く、かつ情報の重複が少ない本であること、本を出す度にその反応をWeb上から収集し、また識者との意見を交わす中で次第にそのビジョンが現実的で明確なものへと進化してきたこと、以上の理由から、梅田氏がこれだけのパブリッシュを行うのは正当な理由があると考えを改めた。


そして、『Web進化論』以来の活動の(ひとまずの)集大成にあたるのが、本書である。


本書は2025年までに訪れるであろうWeb2.0時代についての具体的なビジョンを示した後(そのビジョンは『Web進化論』に比べるとややトーンダウンしているが、その分実現可能性としては限りなく高いものになっている)その中で「サバイバル」していくための秘訣を余すことなく提示している。


キーワードとなるのは「けものみち」である。
Webというある程度の水準にまで人々の知識・能力を高める「高速道路」を抜けた先、そこで起こる大渋滞をどう抜けるか。
専門家への狭き門を目指して邁進するのもいいが、自分なりの独自の生き方、「けものみち」を行くのもいいではないか、と著者は語る。
そして「けものみち」をゆくための心構え・ノウハウを、自身の経験と豊かな想像力から惜しげもなく披露している。


//以下12/25加筆-----
(どうやら中断中に他ならぬ梅田氏が訪問されていたらしい。
中途半端な書評をお見せすることになり、お恥ずかしい限りである。
私は習慣上、書きかけをそのまま公開しているが、ネット空間も1つの「公」空間であることをもう少し意識しなければならないと感じさせられた。
この緊張感が記事の質を高め、ひいてはWeb上のコンテンツを充実させていくことになるのだろう。
本当にWebは学ぶべきことの多い空間である。)


ウェブ時代を生きていく具体的な心構えや技術に関しては本書を直接お読みになることをお勧めする。
私の方では例のごとくまたレポートを書いて公開するつもり(今年中は難しいかな。まあ、正月休暇を使えばなんとか)。
↓それにしても、このレポート公開、著作権上問題はないのだろうか
知の吹きだまり
(元がword文書だったのでPDFにする段階でひどいレイアウト崩れが起きている・・・)
勿論私に悪意はない。
ただこれだけ情報量の多い中で、少しでも多くの人にこのエウアンゲリオンを伝えようと思う気持ちの方が強かっただけの話である。
1冊でも多く売れることと、1人でも多くの人に伝わること。
どちらの方を著者が歓迎するか是非聞いてみたいものである。


だんだん本書の評からずれていくのは最早このブログではお約束(とただ一人私だけが思っている)。


内容に関しては年末に作成するレポートに期待していただくとして(勿論そんなもの待つ必要はない。書店へ急げ!!いや、書店もまどろっこしい、今すぐAmazonでワンクリック購入じゃ!って、何であんたがコマーシャリズムの片棒担いでんの!!)。
本書に関する私の好評の理由を2点。


1点は本書(を含めた梅田氏の一連の著作)がオプティミズムに満ちていること。
とかく「暗い話」を書いた本が売れている中で、これだけのオプティミズムを貫き、かつ読者に(幻想ではなく)希望を与えるような著作を近年見たことがない(というのは誉めすぎで、実は最近読んで感想を書いた田原総一朗×長谷川慶太郎の対談本『日本の大逆襲』における長谷川氏の発言は日本の将来に関して明るい展望を持たせるものとなっている)。
ネガティブチェックは誰にでも出来る。
壊すのは簡単だが作り上げることは難しい。
厳しい条件の中で建設的な提案を構築出来る人の意見こそが重要なのである。
その点はさすがアメリカという土地、コンサルティングという職業で鍛え上げられた著者の力の本領発揮といったところか。


加えてこの本が優れている点は、「ウェブは自ら助くる者を助く」という言葉で表現されているように、あくまで「自ら努力する人」にとってのみその明るい展望が開けている点をしっかりと強調している点だ。
なんだ、結局「実力主義」ではないか、という反論が聞こえてきそうであるが、とんでもない。
これまでそもそも「努力しても(諸処の条件のせいで)報われなかった」人々が、努力する手段とそれが報われる可能性が与えられたというだけでも十分本書の示している展望はオプティミスティックであると言えるのだ。
努力すれば報われる(可能性がある)、思い立った時にいつでも再チャレンジが出来る、大資本が無くてもプロジェクトを立ち上げられる、設備や資料が調っていなくても研究(勉強)が出来る。
そういう可能性をより多くの人に提供したというだけでも十分Webは人々の希望となり、またその可能性を指摘した本書はまさに「福音の書」なのである。


Web上に構築されるもう一つの世界。
より広範囲での情報の共有。
誰もがアクセスできる知の宝庫、素人がセミプロの水準までその能力を一気に高めることを可能にする「高速道路」。
最早これは「あるべき姿」ですらない。
歴史の必然なのだ。
かつてマルクスが予言した「必然」は実現しなかった。
それは人々の本来の姿とはかけはなれた「禁欲」を強いる社会システムだったからである。
しかし、Web時代は違う。
人々の純粋な動機(欲望)に基づいて自然に構築されつつあるこの世界こそ、現在の商業主義に変わる新しい価値観に基づいた世界なのである。
梅田氏の著作は来るべき未来社会の姿とその中での人々の生き方を指し示したという点で、将来、マルクスが来たるべき未来社会について予言した『共産党宣言』に等しい評価を得ることになるだろう。
・・・・・・。
些か誉めすぎたか。
いえ、何も貰っていませんよ(サイン本以外)。