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iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏 (ビジネスファミ通)

iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏 (ビジネスファミ通)

書名:iPad VS. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏 (ビジネスファミ通)
著者:西田宗千佳


■評価:優
  情報:○ 新奇性:○ 構成:○ 日本語:△ 実用性:○
  難易度:やや難 費用対効果:◎ タイトルと内容の一致:△
  お勧め出来る人・用途 :「電子書籍」に関しての基礎知識が十分でない人・「電子書籍」における特に「ビジネス」的側面においてキーとなるファクターについて学習する
  お勧めできない人・用途:「電子書籍」についてある程度の知識を備えている人・最新の電子書籍動向について知る


■所感
 本書をこのタイミングで評するのは実はあまりフェアではない。
 なぜならば本書は日本で"iPad"が発売になる以前に執筆されたレポートであり、それから8ヶ月以上経過した現時点で、その市場動向や各社の対応方針がそれに応じて変化しているからである。
 本書を「最新の電子書籍動向について知る」という目的には向かないとしたのは、勿論このことを根拠とした評である。


 ただ、本書はそのような「タイムリー」な部分を除いても、一読の価値がある。
 それは、「電子書籍」という新しい(実はこれがごく最近になって「突然」現れたものではない、ということは本書の指摘によって明らかになるのだが)カテゴリについて、キーとなるファクタが何であるかについて、的確な指摘を行っているからである。
 それはこれから「どのようなビジネスモデル」が登場し、その「成功要因」は何であり、「天王山」はどこにあるか、というものであり、状況が刻々と変わる中でも、それらがどういう意味を持つのか、という点について重要な視点を与えている。


 これを可能にしているのが著者の幅広い知見である。
 特に、IT技術そのものに対する理解、ITビジネスのこれまでの経緯に対する的確な理解、そして「ビジネスモデル」に対する的確な見識、に基づいた分析には感服させられる。
 そして、この点が非常に重要なのであるが、これらの知見をもとに憶測で物事を語るのではなく、実際のキーパーソンに取材を行い、その取材結果と著者自身の仮説との突き合わせにより、論を展開するということを徹底して行っている。
 故に、著者の分析は信頼に価するのである。


 本書は、「電子書籍」問題を考える上で、必要となる知識基盤を提供している。
 本書のベースを元に出来ているかいないかで、これからの「電子書籍」市場に関するニュースの理解が全く異なるものとなるだろう。


 意識の高い者は既に読み終えているかもしれないが、まだ読んでいないという人は、可及的速やかに手にとって内容を理解しておいた方が良い。
 IT関係ではなく、新聞を含めた出版業、書店業などに携わる人間にも必読の書である。


 ちなみに、「本」というものについて、より掘り下げて考えたいという人には、佐野さんの以下の名著を併せて読むことをお勧めする。
佐野眞一『だれが「本」を殺すのか〈上〉〈下〉 (新潮文庫)』

だれが「本」を殺すのか〈上〉 (新潮文庫)

だれが「本」を殺すのか〈上〉 (新潮文庫)

だれが「本」を殺すのか〈下〉 (新潮文庫)

だれが「本」を殺すのか〈下〉 (新潮文庫)


■読了日
2011/01/07