案ずるな、そこに意味はない

存在と苦悩 (白水uブックス)

存在と苦悩 (白水uブックス)

書名:存在と苦悩 (白水uブックス)
著者:アルトゥールショーペンハウアー(金森誠也:訳)


■評価:良
  論理:△ 新規性:△ 構成:△ 日本語:○ 奥行き:○
  難易度:やや易 費用対効果:◎ タイトルと内容の一致:△
  お勧め出来る人・用途 :ショーペンハウアーの思想をかじったことがある人・原書に至る前の入門書として
  お勧めできない人・用途:ショーペンハウアーの思想についての知識がない人・ショーペンハウアーの思想の入門書として


■所感
 ショーペンハウアーの思想は個人的にかなり思い入れがある。
 というよりも、私のとる思想的立場は、ショーペンハウアー6のニーチェ4ぐらいである(これにサルトルやハイデガーなどがスパイスとして加わっているくらい)。
 しかし、主著『意志と表象としての世界』はまだ読破できていない。


 盲目の意志に突き動かされた「意味」のない世界、という思想、すなわちペシミズムに関しては十分理解しているつもりであったが、本書前半を精読して、その理解がより増したように思う。


 中盤の非論理的な「決めつけ」の部分など、ショーペンハウアーの著述にはかなりの癖があるので、ショーペンハウアー入門としてはあまりお勧めできないが、ある程度思想書になじみがあり、(できれば)ショーペンハウアーの思想について「高校倫理」程度の知識がある人
が読む本としては比較的難度が易しい部類に入るだろう。


 前半を読む限りでは、本書の編纂はほとんど「完璧」に近いものがあると感じていたが、中盤、やや無駄な部分があり(確かにショーペンハウアーの思想として、彼独自の「女性蔑視」や「道徳感情論」は外せないのだろうが、そういう時代遅れの部分は敢えてこの中に取り込まなくても良いと思う。少なくても一部の読者は困惑し、その中の「骨のある」読者は、この点を以てアンチ・ショーペンハウアーになるだろう。それはあまりにももったいない)、後半も「音楽論」がかなり期待はずれの内容であるなど、全体として見ると高い評を与えることが出来ない内容になってしまっている。
 前半の「意志と表象としての」世界について、中盤の「自殺」について、そして最後の方の「死と自由について」に関してはかなり秀逸でよい部分を抽出してきているだけに、非常に残念である。


 これまであまり意識していなかったが、ショーペンハウアーは思いの外、「キリスト教」をベースにした哲学を展開していたのだと知った。
 これは意外であった。


 表題は悪くはないが、哲学やショーペンハウアーを知らない人が表題の内容を期待して本書を手に取ると肩すかしをくらった気分になるだろう(何せ自分の「存在と苦悩」について考えたいと思っているところに、突然「この世界の営みは全て盲目の意志によるものであり......」と持ち出されても、話が大きすぎてなんのことやら、となるに違いない。いわゆる「スピリチュアル」なものが好きな人にとっては慣れていることかもしれないが(私は「スピリチュアル」的なものについては全く興味がなく知識もないのでよくわからないが))。
 ある程度の根気強さも必要になるので、普段あまりこういった文章を読み慣れていない人にはお勧めできない。


 ちなみに、本書はオムニバスであり、ショーペンハウアーのメインの主張のスクラップである。
 ショーペンハウアーに『存在と苦悩』という著書はない。
 ご存じだとは思われるが、念のため。


■読了日
2010/05/21