スカートの中の秘密の生活 (幻冬舎文庫)

スカートの中の秘密の生活 (幻冬舎文庫)

書評:スカートの中の秘密の生活
著者:田口 ランディ


私は下ネタが嫌いである。
大嫌いである。
どのくらい嫌いかというと、婉曲表現も含めて全く完全に受け付けないほど嫌いである。
耳に入ってしまうと激しい嫌悪感に襲われる。
ただ、それは中身のない、純粋なネタとしての下ネタの場合の話。


性について語っている本は読む。
(そもそも世の小説の大半は、性について語っているので、小説を読む時点で必然的にそうなるが)
人間はどれだけすましていようが、結局は布を身につけたサルに過ぎないので、その性質や行動特性を知るに、本能からのアプローチに勝る方法はない。
勿論、食や睡眠に関する本も読むが、どちらかというとそちらは健康関連の本となる。
食欲も睡眠欲も必要に応じて「抑制」することはあるが、そこから複雑な文化が生まれることはない。
どちらも非常に単純な理屈で説明が出来る。
それに対して性はその「抑圧」から多種多少な人間行動のバリエーションを生んできた。
フロイトの言葉を借りれば、人間は本能が壊れた動物、であり、壊れた本能とはまさに「性」に関する本能なのである。
レヴィ・ストロースを曲解して断言してしまえば、人間の文化は「近親相姦の禁止」から始まったのであり、全ての文化は「性」に通ずる。
とまあ、大仰なことを言ってはいるが、要は、人間をみるにこの視点ほど有効でなおかつ面白い視点はないのである。


で、肝心の本書の内容は。
一言で表すとするならば、「肉食系女子」の本音トーク、となるか。
ただし、「草食系男子」は最近の傾向であるとして、「肉食系女子」というのが私にはよく解らない。
世の中は太古の昔から常に女が動かしてきたのであって、その強力な女の力を押さえ込むために、男は徒党を組んで法律をつくり、軍隊をつくり、政治・経済のシステムを作って女をがんじがらめに縛り付けて来た。
が、それでも、男が男である限り、勝負は見えている。
村上龍に教えられるまでもなく、すべての男は「消耗品」でしかないのである。


閑話休題
というわけで、解りやすいと思って最近はやりの言葉を使用してみたが、「女の本音」というのが本書の内容を表す言葉としてはふさわしいだろう。
個々の理論やエピソードには、「真理」からはほど遠い乱暴な意見や著者の偏見が散見され、大きな反発を感じる(特に女性の)人はいると思われるが、私は著者はいい点を突いていると思う。
人と関わった数が、著者をして人間心理の真髄に近づかしめている、そう感じさせるような内容だった。


ちなみに、「中身がある」時点でそれは既にネタではないので、私の個人的な定義では、これは下ネタには入らない。
本書は勿論研究書ではなく、エッセイなので、中身があるかどうかは読んでみないと解らない(まあ、ただの下ネタになってしまっている研究書も数多く存在する)が、幸いにも示唆のある書であった。


興味がある人もない人も(興味がない人はほとんどいないだろうが)、読んで損はしない痛快エッセイ。
夜の読書に最適。