文藝春秋 2009年 03月号 [雑誌]

文藝春秋 2009年 03月号 [雑誌]

書名:文藝春秋 2009年 03月号 [雑誌]
   ー第40回芥川賞受賞作『ポトスライムの舟』
著者:津村記久子


久しぶりに石原慎太郎氏が(渋々とはいえ)受賞作を推したと述しているのを見た。
もうなんかこの頃は芥川賞の作品を読むために文春を買っているのか、最近の作家の作品はひどいという石原節を聞くために文春を買っているのか解らなくなってしまっているくらい、石原氏のコメントを毎回楽しみに読んでいる。
これまでと同様、私は石原氏の批評通り、「上手いのは認める、だが、傑作とはいいがたい。非常につまらない」という感想をもった。
まさに「繰り上げ当選」という言葉通りの作品のように思えた(石原氏と違って私は他の候補作を読んでいないので、あくまでも感覚だが)。


加えて、私の個人的な感想として、「これは確かに上手いが芥川賞としてはふさわしくない」
というのがある。
芥川賞はあくまで「純文学」に対して与えられる賞であり、これは私の偏見でしかないが、受賞作は何かしらの「狂気」を作品の中に秘めていて、そしてそれ故に「よく解らない凄み」を感じさせる、なんだかよく解らないけどすごいよこれ、という作品でなければならない。
現代の作家で言えば、村上龍の作品なんかが芥川賞的だと言えば少しはつたわるだろうか(勿論春樹の方でも良い。が龍の方が特徴が際だっていると思われたので例に引いた)。
逆に浅田次郎なんかは(私の好きな作家5人の内に入る1人ではあるが)、作品の質が高く時に狂気を感じさせるような作品も書くが、内容が非常にわかりやすすぎるので芥川賞的ではない。


話がそれた。
(いつものことじゃないか)<だからいつも注意しているんだろうが>


この作品は確かに上手い。
話題もタイムリーで非常に共感を持ちやすく、ストーリー展開に無理が無く、人物がしっかりと書けている。
だが、残念なことに、大事な点が欠けている。
つまらない、のである。
他の言葉では表現しようがない。
ただ、ただ、つまらない。


読み終えてまず思ったのが、「ふぅん、だから何?」という非常に素朴で致命的な感想だった。
好きな作家の短編の1つにこんな作品があったら、まあ、そんなにマイナスのイメージを持つことはないのだが、芥川賞受賞作というから、それなりの期待をして読んでみて、これでは、がっかりする。


おおはずれではないが、敢えて読むほどの価値があるようには思えない、つまりどうでもよい作品の1つ。
芥川賞」は頭から外して読むと、素直に1作品として楽しめるかもしれない。


それにしても。
芥川賞って、ここ最近「該当作品なし」になることがないけど、何かしばりでもあるのかな(主にコマーシャリズム的な)。
評者のコメントを読んでいても(今回の作品に対してはそこそこ好意的な意見が多かった。全開は受賞作に対してほとんどの選考委員がぼろぼろにけなしていた、が何故か受賞していた)、あまり多くの選考委員の推薦を得て受賞に至った作品がないように思えるのだが、そこは政治的な何かがあるのか。
まあ、そういう政治的なものごとには興味がないので特に調べようとは思わないが、それにしてもモブ・ノリオ的な(勿論良い意味で)ぶっとんだ作品はもう読むことができないのだろうか。
大衆文学=直木賞、純文学=芥川賞、はもう古い人間の考え方なのだろうか(例えば保守ー革新のような)。
・・・つまらん。