学校って何だろう―教育の社会学入門 (ちくま文庫)

学校って何だろう―教育の社会学入門 (ちくま文庫)

書名:学校って何だろう―教育の社会学入門
著者:苅谷 剛彦


あ゛。
また新刊出てる。
・・・・・・。
買わなきゃ。<もう教育社会学はいいだろ>
(いや、苅谷さんだし)


はい、そこ。
話そらさないの。
ちゃんと書評書きなさい。
へ〜い。


良書。


子供向けの「教育社会学入門」なんて書けるはずがない、と思っていたのは完全に私の思い込みであった。
本書がまさにその「子供にも解る『教育社会学』入門の書」なのである。
もっともこれがすんなりと解る子供は、あまりにも早熟で不気味ではあるが。
(旧制中学の時代の中学生はこれを難なく理解出来ていたのだろうなぁ)


本書は表題通り、「学校って何」という視点から、学校における様々な要素「机・制服・授業・校則」などに対する疑問に答える形で、「教育社会学」とは何かを解りやすく説明した佳作である。
苅谷氏の著作はどれも解り安いが、「教育社会学」という比較的難解な学問領域(哲学に比べれば平易だが、歴史学に比べれば難解である。ただし、あくまでそれは学問の定義として、の話)の説明をこれほど平易にお出来になるとは意外だった。
あくまで「学者さん」だと思っていたのである。
(「学者さん」の「入門」「解り安い」「小学生でも解る」「サルでも解る」の水準は全くあてにならない)
大変失礼な誤解だった。


本書の優れている点は、苅谷氏の主張(一言で言うと、「家庭環境の質の差異が学力の差異となり、ひいてはそれが経済格差に繋がっている」という主張)の色が極限まで抜かれた状態になっているという点である。
だいたい「学者さん」は、研究書だろうが大衆向けの新書だろうが、子供向けの「にゅうもんしょ」だろうが、結局はその人の主張に偏向した内容にしてしまうのだが、この書籍ではそういう「偏り」が注意深く回避されている。
勿論、苅谷氏の主張を知るものが注意深く読むと、彼の思想が諸処ににじみ出ていることが解ってしまうが(書籍は人が書くものである以上ある程度の偏向は仕方がない)、あくまで価値中立であろうとするその態度は高く評価できる。
その姿勢のおかげで、読者は「教育社会学」とは何かという点に集中して本書を理解することが出来る。


さすがに細野真宏氏のような「離乳食」のような解りやすさ(誉めているつもり)にはかなわないが、難解な漢語やカタカナ語を使わずに、出来るだけ平易な言葉で、ただし読者におもねらない自分の言葉で、「学校」について語られている良書である。
「学校」というところは誰もが人生の一時期を過ごす場であり、また、社会の最重要課題である「教育」を規定する1つの大きな要素である。
そう言う意味では、本書は万人にとって興味があるはずの本であり、またそうでなければならない。
内容は平易なので、「教育の社会学」というなにやら取っつきにくそうなサブタイトルを見て敬遠することなしに、是非読んでもらいたい。