皆が何故そんなにも求めるのか、不思議でならなかった。
皆が何故支えを必要としているのか、理解が出来なかった。
自分は強い人間だと思い込んでいた。
誰も必要としていなかったから。


だが、それは自分を支えているものの存在に気づいていなかっただけなのだ。


不安定なものが嫌いだった。
人の心は移り変わる。
それは何よりも自分の心を見ていればわかる、絶対に確かな真理だった。
自分が信用できないように、他人も信用できなかった。
だから私は、自分の支えを外に求めることを自らに禁じた。


結局、私は盲目だったのだ。
自分を支えている他人よりも不安定で、宝くじよりも不確かな支えに気づいていなかった。
その夢を支えていたのは過信だった。
誤った世界認識と、それ以上に誤った自己認識だった。
そして、時は来た。
時限爆弾は、寸分の時も過たず、自らの役目を果たした。


ただ1つ、愚かな自分の認識の中で的を射ていた分析があった。

我に力を、さもなくば死を

確かに、私はそれに全てをかけていた。
それがうまくいかなかった場合、私に残された選択肢は死しかなかった。
目的もなく、恥を忍んで生き続けることは出来なかった。
そのはずだった。


そいつがどこから現れたのかは解らない。
だが、私の動物的本能に由来するものでないことだけは確かだ。
もしそうならば、「死の衝動」が既に私をこの世界から消し去っていたはずだからだ。


そいつは巧妙な手口を使った。
そいつは(わたし)を籠絡することから始めた。
そいつはまず、(わたし)に「夢」に対する譲歩を迫った。
「現実」という凶器を突きつけて。
それからそいつは徐々に私が「夢」を諦めるように、そして最後には「夢」の意味を最初のそれとまったく違うものに変えることに成功した。
「本当にしたいこと」という殺し文句を利用して。
(わたし)はだんだん、自分の望みが解らなくなってきた。
「もしかすると私はこんなことがしたかったんじゃないか」、そう思うようになっていった。


そいつは「結果」という最終兵器で、(わたし)の(当初の)「夢」にとどめを刺した。
勿論、その前に「時限」という罠を張っていたのは言うまでもない。
そして、主導権はそいつの手に移った。
私は、死期を逃した。


気がついたら私は、多くの「常識的な」人に混じって、大衆消費社会の流れの中で、規則正しい運動を行っていた。
そいつは勝利を確信したに違いない。
だが、完璧に見えたそいつの計画にも誤算があった。


そいつが唯一制御できなかったものに、私の身体があった。
そいつは何とかそれを制御しようと、様々な手を尽くした。
が、結局身体である私は、そいつの命令に屈しなかった。


そいつは単純なやつではない。
制御しきれないと見るや、そいつは作戦を変えた。
「緩やかに消滅する」
これがそいつの新しいスローガンらしい。
騙し誤魔化し生かし続ける。
(わたし)が絶望を抱いて極端に走ることを避けるために、偽の「夢」をこしらえ、バランスを取り、インセンティブを与え、モチベーションを維持させる。
だが、それすらも、破られるのは時間の問題である。


(わたし)は気づいてしまった。
今私を支えているかに見える「夢」がただの張りぼてであることに。
魔法は気づいたときに解ける。
支えを失った私は、急落する。
そいつにそれを止めるすべはない。


今、私の命運を握っているのは恐らく身体としての私だろう。<わたし>は主導権を失いつつある。
(わたし)は既に抜け殻だ。
これから先、(わたし)にも<わたし>にも理解不能な行動を私はとり続けることになるだろう。
だが、それは、もはや既に私の興味関心の対象外である。
私は綴る。
私が私であり続ける限り。