「残業ゼロ」の仕事力

「残業ゼロ」の仕事力

書名:「残業ゼロ」の仕事力
著者:吉越浩一郎


良書。
論旨が明確。
無駄な説明一切無し。
素晴らしい。


この著者の冷徹な論理には感心した。
この人はもはや日本人ではない、欧米人だ(誉め言葉のつもり)。


日本人がなぜビジネスで弱いか、原因は単純明快である。
ビジネスとは何かということが解っていないからだ。
著者の言うとおり、ビジネスとは一定のルールのもとに行われる生存競争である。
そこに義理人情の入り込む隙間は一分もない。
勿論当たり前のことだが、これは冷たい人間になれとかけんか腰の態度をとれという意味ではない。
ビジネスはビジネスという割り切りが大事なのだ。
それが出来なければ残業はなくならない。


日本人が欧米人より能力の面で劣っていないにも拘わらず、彼らと同じ成果をあげるために彼らより多くの労働時間を必要としているならば、明らかにその原因は仕事の効率が悪いからである。
効率が上がらないのは、上げようとしないからだ。
日本の会社では自分1人仕事を早く終えても早く帰ることは出来ない。
どうせ早く帰ることが出来ないのならば、一生懸命効率を上げても何の特にもならない。
そういう経験の積み重ねと雰囲気が残業を常態化させている。
この病根を絶つ方法はただ1つ、残業を禁止することしかない。
人は追い込まれなければやる気を出さない。
効率を上げざるを得ない状況に追い込まれて初めて、効率を上げようというインセンティブが働き、その結果効率が上がるのである。


残業ゼロ以外にも、本書は会社を運営する上で重要な指摘をいくつか含んでいる。
実践するかどうかは別にしても、読んでおくべき一冊であろう。


実践するかどうかは別、と書いたのは、本書に示されている内容が非常に過激な改革を要するものであるからである。
恐らく従業員の何割かは辞めることになるだろう、そのような改革である。
10年かかったとあるが、その間に会社が潰れてしまう可能性もある。
容易には実行できない。


残業とは何なのか、残業はなぜ発生するのか、これほど明確に記述した書は他にはないだろう(単に私がその手の本をあまり読んでいないだけなのかもしれないが)。
とりあえず人事の人に読んでもらいたい。


私自身も大いに反省させられた。
「どうせ帰れないのだから」、というのは根本的に間違った意識なのである。
デッドラインを設けて、その時までに必死でやる、ということを早速実践してみようと思う。
それだけでも大分違うだろう。


ただ1つ問題なのは私の身体がついていかないこと。
本書で述べられていることはどれも正しいと思うのだが、恐らく私の今の状態では、残業を禁止されたら工程を守れず仕事を辞めざるを得なくなるだろう。
知識・経験という点でも圧倒的に不足している。
本書の著者(のような人)が上に来たら、私は真っ先に辞表を書くかその前にリストラされるかのいずれかとなるだろう。
だが、だからといってこれが間違っているわけではない。
述べられていることは正しい。


最後に難点を1つ。
"TTP"(徹底的にパクる)や"GGN"(義理・人情・浪花節)といった、「この人本当に外語大卒、外資系エリートで奥さんがフランス人なのか?」という疑問を抱かざるを得ないようなひどい略語が使われている点だけは看過できなかった。
文章は簡潔明快なだけに残念。
まあ、その辺りは「プライドを捨てて実利を取る」という本書の著者ならではということなのかも知れないが。


昨今の9割の実用書が字数を稼いでいるとしか思えないような無駄な話でぶくぶくに膨らんでいる中で、珍しく必要な事項だけを簡潔にしかも論理的に書いてある良書。
繰り返しになるが、ご一読有るべし。