失楽園(上)

失楽園(上)

書名:失楽園 (上)
著者:渡辺淳一


渡辺淳一の作品には期待していた。
読んだのは『愛の流刑地』だけだが、比較的興味深い内容だった。
性描写がきつすぎるのが玉に瑕だが、男性の心理(残念ながらこの人は女性を描けていないと思う。性愛に関しては女性の方が奥が深いという1点だけが、唯一女性に関する真理を述べた部分で、後は全て男性の都合のいいように解釈されていているように思う)、恋愛や性愛と社会秩序、性愛と死、エロースとタナトスなどいろいろと考えさせられることの多い展開だった。
特に『愛の流刑地』に関しては、恋愛や性愛が社会の利害と衝突する様を上手く描き出している(取り上げているのは極端な事例であるが、基本的には恋愛や性愛は社会の利害と衝突する。だから社会は「結婚」などという制度を設けることでこれを統制しようとするが、古今東西現在に至るまでこれが完全に機能している社会などない。完全に機能してしまったらそれこそフーコーの生の権力が実現してしまっていることとなり、我々は完全にシステムの管理化にある家畜でしかなくなる)。
さらには、結果的に人を殺めてしまった主人公の心境の移り変わりを丁寧にえがいており、最後に主人公が至る境地はさながら日本版『罪と罰』・・・ていうかこれ似すぎてない?と言いたくなるほど(特に終盤、判決後の部分)。


・・・・・・。
何で前に読んだ方の本の書評を書いているのだ。
いや、比較でしかものが語れないというのは批評としては最悪なのだが、この本を読むにあたり、私が期待したのは『愛の流刑地』のような恋愛・性愛と社会との葛藤とその結末だということを言いたかったのだ。
で、この期待からみると・・・やや期待はずれ。


読んでいて、『愛の流刑地』を読んでいるかのようなデジャビュを感じた。
この人の作品はまだ2作目だから断定は出来ないが、この人の書く作品はみんなこうなのか?
それとも『失楽園』→『愛の流刑地』の流れだけ特別なのか?
しかも、何か『愛の流刑地』というある意味での「完成品」を読んだ後で読むと、それの未完成版を読まされているような感じになって、あまり面白くない(読む順番が逆なら『愛の流刑地』が『失楽園』の完成版だ、という肯定的な評価になったのだろうが、そんなことは知らん。世に作品を出す物書きに対しては厳しく接するべきなのだ。それでいいのだ)。
まあ、こちらはまた違う結末らしいから(何故か結末だけ知っているという)、下巻ではそこに至るまでの過程とその描写に期待してみよう。
なんといっても上巻はまだ「馴れ初め」、ではなくて「密会」か、の段階、というよりも「密会」しか書かれていないから結論を下すのはまだ早いか。


それにしてもこれ、日経の連載だったんだよね。
よくこんなもの電車で読めたものだよな。
だって逆さにしたってこれは官能小説以外の何ものでもないでっせ。
まったく、男というのはくだらない生き物ですな。