パラサイト・シングルの時代 (ちくま新書)

パラサイト・シングルの時代 (ちくま新書)

書名:パラサイト・シングルの時代
著者:山田昌弘


希望格差社会』で一躍有名になった山田昌弘の新書。
こちらは『希望格差社会』よりも先に出版されたもので、後に『「ニート」って言うな! 』で批判されているように、この「パラサイトシングル」という概念が後の「ニート」という概念の土台となっていることは間違いない。
従って「ニート」研究の前に、まずこの「パラサイトシングル」について理解することが必要となる。
まあ、本田氏によれば、「パラサイトシングル」の無職版の感覚で「ニート」を見るから間違ったイメージを抱くのだ、ということになるのだが。
しかし、パラサイトシングルとニートをどう区別するか、あるいはまったく別の問題として考えるかはその人の思想上の問題であり、とりあえずこのパラサイト現象を理解しないことには現在の若者の問題を論ずることは出来ない。


本書はパラサイトシングルを理解する上で必要な数字データ、アンケートデータ、及び実態の描写が余すところなく含まれている。
パラサイトシングルを議論する上での土台としては、本書1冊で十分であると言っても過言ではない(勿論これはあくまで議論の出発点として、という意味である)。


ただし、「パラサイトシングルが消費落ち込みの元凶である」「パラサイトシングルが日本を駄目にする」という類の本書の「主張」には納得することが出来ない。
前者の主張は経済学的に十分な根拠がない。
この部分は著者の思いこみの部分が大きい(勿論、分析の結果著者の主張が正しかったと証明される可能性はある。だが、少なくとも本書の分析ではその判定すら不可能である)。
本書は間違っても「経済」の書として読んではならないものである。
後半の主張は、著者の思想の偏向(やや右、保守)が見えて、あまり気持ちのいいものではない。
私もパラサイトシングルは「気持ち悪い」と感じる。
パラサイトシングルが少子化の原因であり、その意味では日本を「駄目にする」一因となることは議論を待たないという立場ではある。
さらには、「消費水準を下げたくない」という理由で親元から離れようとしない行為を「醜い」と思う。
しかし、それは私自身の美学の問題であり、他人に強制する類のものではない(この点において私の思想は左寄りである)。
少子化によって国が滅びる(という表現は些か飛躍があるが)という点に関しても、それが(多数の)人々の望みだったならばそれも致し方ない(ある特定の人の「滅びてはならない」という思想によって多くの人に望んでいない形の生活スタイル、家族形態を強制することは出来ない)という立場である。
従って、本書の「主張」に関しては、私は明確にこれに異議を唱える。


結論を述べると、本書はあくまでも「パラサイトシングル」という現象の実態を把握するための書であり、議論の土台としては最良であるが、その解決法やあるべき姿の提案はあまり利用価値がない。