論争 格差社会 (文春新書)

論争 格差社会 (文春新書)

書名:論争 格差社会
著者:文春新書編集部


良書である。
格差社会」について、「格差拡大」実在側と虚構側の両者の意見が集約されている。
本書の議論を理解することで、「格差」に関する問題点を整理することが出来る。
それによって、自分の立場を確認し、「格差」に関する資料を冷静に理解・判断することが出来るようになる。


本書そのものは明らかに「格差拡大」虚構側の立場である(「はじめに」で「格差」を「イメージ」と決めつけている箇所はやや反則な気がする)。
しかし肯定側の論客も、山田昌弘森永卓郎などを揃えており、一方的な「格差拡大」実在論者糾弾本とはなっていない。
ただし、批判のやり玉に挙げられている玄田氏や橘木氏がこれに参加していないのは、やや「欠席裁判」のきらいがある。


それを差し引き、本書を冷静な批判の目で眺めたとしても(勿論私もバイアスを持っているから限界はあるが)、この問題に関しては「格差拡大」実在論者の方が圧倒的に不利である。
彼らの主張で説得力を持っているのは、唯一「多くの国民が『格差(拡大)』を実感している」といういわゆる「格差イメージ」の拡大だけである。
肝心の統計数字は、彼らの主張を少しも裏付けているようには見えない。
「格差」は以前からあり、特に拡大はしておらず(所得格差は高齢化によるもの)、いわゆるニートは定義を正しくすると特に増えてはいない。
正規雇用拡大は確かに問題だが、単に非正規雇用正規雇用にすればいいという問題でもない(第一、まともな手段を提案している論者はいない。法律で無理矢理させればかつての社会主義国の二の舞になるだけだ)。


「格差」問題について冷静で客観的な視点を得たいと思うなら、本書は必読の書である。
少なくとも本書の批判に耐えうる言説でなければ、客観的に妥当な「格差」論とはならない(飲み屋の与太話レベルである)。


本書は様々な個性の寄り集まりでもあり、単なる読み物としても十分に読み応えがある。
特に日垣隆のエッセイは(「格差」論とは少しずれている気がするが)一読の価値あり。