悪夢、再び

線がほどけてゆく。
左右に大きく揺れる。

ブレーキを踏まなければ

しかし、探り足が踏み込んだのはアクセル。


視界が崩壊していく。
もうハンドルを制御することが出来ない。

ブレーキを踏まなければ

しかし、探り足が踏み込んだのはアクセル。


溶けていく。
全てが1つになって・・・。

ブレーキを踏まなければ

しかし、探り足が踏み込んだのはアクセル。


駐車場に停車している。
私は運転席に座っている。
意識を張り巡らせるが、どこも怪我をしていない。

おかしい。
痛みをまったく感じない。


取り返しのつかないことをしてしまったことだけが解る。
何故、人を乗せたのか。
いや、そもそも何故、運転してしまったのか。

おかしい。
痛みをまったく感じない。


T氏ともう一人、知人の顔が見える。

「願わくば、これが夢であらんことを。」

私の切実な問いは、T氏の明瞭な言葉で否定される。
「Iさん、それはないです。
ただ、ひとつあるとすれば、
あなたがこの現実を受け入れやすくなることかと。」

うそだ


私は目覚めるためにいつものように念じる。

これは夢。
目を開けば全てが元に戻る。

目を閉じて、強く念じる。

うそ。
画面が切り替わらない。
そんな。
これが夢じゃないなんて。

頭にかすかにかかるカフェインの感触が、
これが夢ではないことを強く物語る。

うそだ。
これが・・・。
おわった。
もうどうにもならない・・・。

アスファルトにうつぶせになり、目を閉じて目覚めを感じようとする。
しかし、感じられるのはコンクリートの感触だけで、
その生生しさが、かえって現実感を強める。

カフェインのせいで記憶が飛んだのか。
どうして、客を乗せたりしたんだ。
いや、そもそもどうして運転したりしたんだ。
あああああああああ!

記憶はここで途切れている。