生もの

書名:戦略PR 空気をつくる。世論で売る。 (アスキー新書 94)
著者:本田哲也


■nullus評
評価:優
  情報:○ 新規性:○ 構成:○ 日本語:△ 実用性:◎
  難易度:易 費用対効果:◎ タイトルと内容の一致:◎
  お勧め出来る人・用途 :「広報」と「宣伝」の区別がよく分からなくて困っている人・「広報」とは何かについて学習する
  お勧めできない人・用途:組織の広報担当者及び経営者・効果的なPRの具体的な手法についてのヒントを得る


■所感
 PRとは(すなわち「広報」とは)なにか、について非常に解りやすく説明された入門書。
 「広報」=パブリシティと思い込んでいる人、そもそも「広報」と「宣伝」との区別がまったくついていない人は本書を読んで「広報」とは何かについて1度確認しておくことをお勧めする。


 著者が指摘している通り広報「後進国」の日本であるが、これからは広報がますます注目される時代になってくるだろう。
 理由は以下の2点。

  1. いわゆる「マスメディア」一辺倒の時代が終わり、各人のメディアへの接し方が多様化しつつあること
  2. 成熟経済に於ける経済活動に於いてこれから先ますます「広告」予算が削減される傾向にあると思われること


 勿論、これらの背景には「インターネット」という新しいメディアの出現という現象がある。
(著者はその新しいメディア時代の「広告」について論述された佐藤尚之さんの『明日の広告』に触発されて本書を記した、と本書の中で述べている)
 ただ、昨今の「メディア」に関して書かれた論考で内容が優れているものに共通してみられる特長が本書にも備わっている。
 それは、とかく「ネットを使え、こういう様に使え、ネットを使えば全てが解決する」という馬鹿の1つ覚えのようなことを言わない、ということである。
 読者が求めているのは「ネット」を含めた(或いはそれがあることが前提となった)社会に於いて、どのような施策が考えられるか、であり、「ネットを使うか使わないか」ではない(この手のことを勘違いしている論考のいかに多いことか)。
 本書がその愚を免れていることは非常に喜ばしいことであり、それは高い評価に値する。


 本書は原理・原則の本である。
 確かに、著者が実際にプロモートした、永谷園の「冷え知らず」さんの生姜シリーズを具体例に取り上げ、「『戦略PR」とはこのようなものだ」、という例示を行っているが、この例示はあくまで解りやすい説明のためのものであり、それを猿真似したところで同じようなヒットが生み出されるとは限らない。
 (ただし、そのプロセスは現場でも参考になるとは思われる)
 従って、実際にPR業に携わっている方が行き詰まりを打破するためのヒントを模索しようとして本書を手に取ったとしたら、少々がっかりするだろう。


 それよりも、「広報」とは何か、また、どうあるべきかという原理・原則を知りたい方、確認したい方に本書をお薦めしたい。
 読了後、腑に落ちるものがあることは確実に保証できる。


 日本語がややフランクすぎるのが気に障るが・・・まあ、許容の範囲であろう。
 1度は読んでおきたい良書。 


■読了日
2011/05/11