そのソースください

報道再生  グーグルとメディア崩壊 (角川oneテーマ21)

報道再生 グーグルとメディア崩壊 (角川oneテーマ21)

書名:報道再生 グーグルとメディア崩壊 (角川oneテーマ21)
著者:河内 孝, 金平 茂紀


■評価:優
  情報:◎ 新規性:○ 構成:◎ 日本語:○ 実用性:◎
  難易度:やや難 費用対効果:◎ タイトルと内容の一致:◎
  お勧め出来る人・用途 :旧メディアが生き残る道を模索している人・旧メディアの現状を正確に把握し、これからどのような改革が必要になるか考察する
  お勧めできない人・用途:旧メディアに興味がない人・新メディアが旧メディアをどのように駆逐するかを思い描く


■所感
本書が優れている点は、"Google"を特別視していないことである。
10年前ならまだしも、その実力がIT後進国である日本に於いても知れ渡っているような今日に於いて、"Google"が如何に優れているか、というような論を展開することは、恥ずかしいことであっても誇るべきことではない。
今更何を、というわけである。
その点、本書の"Google"に対する視線は冷めている。
曰く、

Googleよ、お前もか

然り。


本書の構成はオーソドックスではあるが、論の展開が段取りを丁寧に踏んでおり、その点で読みやすい。
即ち、

  1. 先行事例(としてのアメリカのマスメディア)
  2. 翻って日本の現状
  3. これからの日本のマスメディアがとるべき道

となっている。
ジャーナリズムにおいてもITに於いても先進国であり、日本が常に見本としてきた、アメリカのマスメディアが辿った道のりを示し、それと照らし合わせる形で、日本の現状とこれから起こるであろう現象を整理し、アメリカと日本との差異を考慮した上で、日本(のマスメディア)が取るべき道について示してある。
こう書くと簡単なように見えるが、論点を絞り、数字を適切に使って組み立てられたこの論考は、大変洗練されており、そう簡単に真似ができるような水準ではない。


本書の優れている点はもう1つある。
それは、「新聞」に代表される「マスメディア」が危機にさらされている原因を、単純に「ウェブ」のせいにしていないという点である。
問題の原因を何らかの目立つ外部要因に求めることは非常に解りやすく、賛同も得やすい。


だが、実際にはこれは大変危険なことである。
そのことで問題の本質が見えなくなる可能性があるからである。
特にこの問題の場合、問題の原因を「"Google"に代表されるWebの台頭」においてしまうと、そこから導き出される結論としては、「結局のところ座して滅びるのを待つしかないね」で終わりとなってしまう(さすがにここまで来て「"Google"を相手にせず」などと威勢の良いことを声高に述べる人はいなくなってきた)。


本書では、アメリカのマスメディア(新聞)の危機の原因を「その異常なまでの利益追求のためのコストカット」に、逆に日本のマスメディア(新聞)の危機の原因を「各社が独自の製作〜流通を丸抱えすることにこだわった結果の高コスト体質」においた上で、それを実証している。
そして、この分析を踏まえた上で、日本のマスメディア(新聞)がとるべき道として、以下のように示している。

■日本はどうなる?
・p145〜151
 「 主要全国紙が新聞印刷、流通、販売から手を引いてニュース生産と発信に特化していくということは通信社化するということでもある。既存の共同通信時事通信との競合は避けられず、通信社と全国紙の間で合併や淘汰が進むことも確実な流れである。」

★予想:新聞業界の変化
    第1段階:生産流通過程との合理化
     −各社で縦割りとなっている「新聞紙」の生産構造を水平に転換
      →大規模なコストカット
      →新聞社は「記事」の作成に専念
    第2段階:新聞と民放キー局・通信社との融合
     −有力な全国紙とキー局とが業務提携
      →地方紙は「道州」単位にまでまとまって緩やかな連合体を形成
    第3段階:新聞・テレビ・通信キャリアー・商社・金融など様々な業種を
         統合したメディア・グループ形成に向けた胎動
     −現在の「新聞」社は人材と取材網を提供して、
      ニュースを製品化して発信する「部門」となる

著者のこの分析と提案がどれだけ確からしいかは本書を読んで自分の目で確かめて欲しい。


特に、マスメディア志望の学生、マスメディア業界の若い人に読んでもらいたい一冊。
また、民主主義の要となる「報道」はどのような形であることが望ましいか、ということを考えるという点では、業界関係者以外の人々にも広く読んでもらいたい一冊である。


■読了日
2011/04/12