ライトニング・ラブ

生きてるだけで、愛。 (新潮文庫)

生きてるだけで、愛。 (新潮文庫)

書名:生きてるだけで、愛
著者:本谷有希子


■評価:可
  物語:△ 情報:− 斬新さ:△ 意外性:△ 含意の深さ:○ ムーブメント:○ 構成:○ 日本語:△
  お勧め出来る人 :愛とは何かについて考えたい人
  お勧めできない人:「恋愛小説」を求めている人


■所感
 個人的な好き嫌いで言えば、この作品は、正直あまり好きではない。
 これは単純に私の嗜好の問題で、私は『狭き門』のような美しい、というよりは「綺麗な」物語が好きなのである。
 だから日本文学よりも西洋文学の方を好んで読む。

 
 本書はそういう意味では非常に「泥臭い」。
 主人公が女性なのにここまで「泥臭い」作品には初めて出会った。
 (単に私が敬遠していただけかもしれないが)


 だが、本書は恋愛の本質をついていると思う。
 「一瞬の輝き」「一瞬のきらめき」。
 半ば自虐的に「流れで何となく」と自己分析する主人公の恋愛関係には、それでも間違いなくこの一瞬の何か、があった。
 

 それに引きずられてずるずると関係を続けることを世間的は「惰性」と呼び、主人公の有様を「堕落」と呼ぶのだろう。
 だが、それはただのルサンチマンなのではないか?
 物語の中盤から現れる「元彼女」のルサンチマンは、このような「働きもせずに何かに依存してだらだらと暮らしている」主人公のような人に対して感じているルサンチマンの象徴である。
 本人がどれだけ苦しんでいるかはお構いなし。
 自分の怒り、恨み、事情だけを一方的にまくしたて、押しつける。


 勿論主人公の有様は決して「誉められる」ものではない。
 だが、だからといって本当にそれは「排除される」べきものだろうか?
 彼女は「堕落」しているのだろうか?
 ネット上のエスカレートした心ない書き込みに吐き気を催した彼女は本当に「何も考えていない」のだろうか?


 確かに社会秩序という意味では彼女の存在は「困りもの」である。
 だが、そのようなものを「排除」してただひたすら前に進み続ける社会は、あまりにも不寛容すぎて生きづらい。


 それはさておき。
 本書は「恋愛小説」として読むと、意外な発見と感動が得られる(かもしれない)。
 「恋愛」に期待される「甘い」要素はほとんどみられないながらも、「恋愛」の本質を垣間みることが出来る。
 

 そして、私はこのような「熱い」人が嫌いではない。

■読了日
2011/03/28