わたしが、あなたを、選んだ

風の海 迷宮の岸 十二国記 (講談社文庫)

風の海 迷宮の岸 十二国記 (講談社文庫)

書名:風の海 迷宮の岸 十二国記 (講談社文庫)
著者:小野不由美


■評価:優
  物語:○ 情報:− 斬新さ:◎ 意外性:◎ 含意の深さ:◎ ムーブメント:△ 構成:○ 日本語:△
  難易度:やや難 費用対効果:◎ タイトル:○
  お勧め出来る人 :自らが選び取ってきた道を強く肯定して生きていきたい人
  お勧めできない人:現実と向き合いたくない人


■所感
 シリーズものの要はやはり2作目にあると言えるだろう。
 その意味ではこのシリーズは読み手の心をがっちりと捉えたと言える。
 かくいう私もその1人である。
 個人的には、テーマとしては本作の方が前作よりも自分に訴えかけるものがあった。


 誰が予測しただろうが、クライマックスのあの大どんでん返しを。
 読者は見事に期待を裏切られ、裏切られたことによって安堵し、そして振り返って、本作に込められた問題提起の鋭さに改めて気づかされるのである。


 それぞれの作品が、あるテーマに沿って編まれていることが小野さんの作品の特徴であることが解ってきた。
 前作のそれは大変解りやすいので改めて述べるほどでもないが、「信じること」であろう。
 本作には2つのテーマが込められている。
 本筋はやはり「運命を受け入れること」なのであろうが、私は敢えて隠された方のテーマ、「愛」それも「恋愛」について取り上げたい。


 本作は帯が語るように、麒麟が王を選定する物語であるが、本作で語られるそのありようは「恋愛」そのものである。
 「なぜだか知らないが解る」「その人には目に見えない何かがある」「気になって仕方がない」「自然に導かれる」
 そして、本作の主人公、黒麒麟の行動が顕す恋愛の最大の特徴。

抑えがたい衝動

 「どうしてこの人なのか」「駄目な人だと解っていても」「どこか抵抗感があることは否めないのだが」
 しかし、

その人でなければならない


 不合理である。
 自分でもよく解らない。
 だが、気がついたときにはその人を選んでしまっている。
 その人から離れられなくなっている。
 その人と運命を共にすることになってしまっている。


 本来ファンタジーと「恋愛」とは相容れないものであるが、本作は見事なメタファーによってそれを実現してしまっている。


■読了日
 2010/10/07