後を継ぐ者が現れなければ本当にこの国は滅びる

書名:田原総一朗責任編集 2時間でいまがわかる! 絶対こうなる!日本経済
対談:竹中平蔵, 榊原英資(司会:田原総一朗)


■評価:優
  情報:◎ 新規性:○ 構成:○ 日本語:○ 実用性:◎
  難易度:やや難 費用対効果:○ タイトルと内容の一致:◎
  お勧め出来る人・用途 :マクロ経済の基礎知識がある人・日本のマクロ経済の現状と対策について考察する
  お勧めできない人・用途:新聞の記述が良く理解できていない人・日本経済の行く末について考える


■所感
 タイトルの軽さとは裏腹に、現在の日本経済が抱えている問題を端的に的確に指摘した良書。
 ロジックとしても筋が通っていることは勿論のこと、実体験に裏付けられた発言だからこそ説得力も高い。
 このお二方は優秀なエコノミストであるのは勿論のこと、実際に政策策定に関わった当事者でもあり、大学で学生を教える教育者でもある。
 そのことがまた、このお二方の現状認識の的確さと、問題に対する提言の質の高さに繋がっていると言える。


 本書はそのような気鋭のエコノミスト二人が、日本経済の現状とそれに対する対処法について論じているが、意外にも(実はサンプロで二人の主張を何度も聞いている人にとってはあまり意外ではないのだが)二人の立場はそんなに離れていない。
 問題意識はほとんど同じである。
 その問題に対する対処法に関して、竹中さんはアメリカ型、榊原さんはフランス型、と思い描いている理想の社会像は違えども、問題に際してどのように臨まなければならないか、その点においては通底している。


 そしてこの閉塞的な環境を打破するために最も重要な鍵となる「教育」について。
 この国がより教育に力を傾注するべきこと、特に高等教育の悲惨な現状を改善することが最優先の課題であることに関して、二人の完全に意見は完全に一致している。
 更に、国際感覚を身につけること、語学力を強化すること、積極的に海外に出ること、これら全ての点において二人の意見にまったく相違点はみられない。
 この喫緊の課題についての認識について、この国を代表する二人のオピニオンリーダーの意見が合致しているという点が、本書において最も重要なポイントである。


 本書は短いながらも、この国が抱えている問題についての正しい認識が凝縮されている良書である。
 このお二人は政治的に対立する立場にある(偶然だが、所属も早慶と別れている)。
 このような場合、とかく自分の立場、或いは感情的な点でどうでもよい揚げ足のとりあい、重箱の隅を突っつくようなつまらない論争になりがちであるが、そこはさすが田原さん、両者の議論を上手く先導し、建設的な、そして解りやすいものにまとめあげている。
 本書が良書たる所以は、お二人の建設的な姿勢もさることながら、それを導き出す田原さんの力が大きい。


 まるでサンプロの対談を見ているかのような充実した議論。
 この国で何が起きているか、それにどのように対処すべきか、正しい認識を持つために必読の本。
 是非。


■読了日
2010/09/05