目を覆いたくなる醜態だが非難出来る者はいない

ジッドの秘められた愛と性 (ちくま新書)

ジッドの秘められた愛と性 (ちくま新書)

書名:ジッドの秘められた愛と性 (ちくま新書)
著者:山内昶


■評価:可
  情報:○ 新規性:○ 構成:△ 日本語:△ 実用性:×
  難易度:やや難 費用対効果:○ タイトルと内容の一致:△
  お勧め出来る人・用途 :人間の性のあり方について興味関心がある人・「性」について考察する
  お勧めできない人・用途:グロテスクなものが苦手な人・ジイドについて知る


■所感
 正直読んでいて気持ちが悪かった。
 最初から最後までありとあらゆる「性」についての生々しいレポートのオンパレード。
 まあ、岸田ーフロイト理論によれば、あらゆる文化は人間の壊れた性本能を補完するためにあるらしいから、そうすると文化の数だけ性のバリエーションがあってもおかしくはない。
 勿論、頭で解ったところで生理的な嫌悪が拭い去れる訳ではないが。


 しかし、前半はテーマに沿ったそれなりに考えさせる内容の考察であった。
 ジイド(私はこの表記の方が好きである)が複雑な問題を抱えていることは知っていたが、想像を上回るようなコンプレックスだった。
 私は、人間の性に関しては岸田−フロイト理論で全て説明できると思っていたが、それは些か楽観的過ぎな考え方かもしれないと思わされるような内容だった。
 岸田−フロイト理論を乱暴に一言で表すとすれば、

人が生み出してきた文化は全て男性の性欲を喚起するために作られたものである

となるが、その理論の根底には、「本能」という思考停止ワードがある。
 本書前半で提示された事例と問題提起はそれを揺さぶるだけの力を持った内容となっている。
 この点に関しては十分に評価に値する。
 

 だが、中盤以降の脱線がひどい。
 著者の興味関心の赴くままにあちらに飛び、こちらに飛びして明らかにテーマから外れた内容になってしまっている。
 よほどの物好き以外、とてもではないが付き合いきれない。
 (内容がグロテスク過ぎて読んでいて気持ちの良いものではない)


 これで何かまとまった収穫でもあれば話は別であるが、結論としては、

人間の性はこれだけ多種多様な様相をみせていてどれが『正常』などとはとても言い切れない

というありきたりのものでしかない。
 「ジイドはたまたま性道徳が最も厳しかった時代・地域に生まれてそのアイデンティティに苦しむことになった、可哀想だよね」と言われても、
「はぁ。」としか答えようがない。
 

 どうも著者にとってジイドはとっかかりでしかなかったらしい。
 私の興味関心はそのジイドの苦悩そのものにあったが、本書はそういう意味では完全に期待はずれの内容であった。
 

 ジイドの遍歴が想像以上に入り組んでいた(というよりも、想像以上に彼の作品と彼の人生は近いものだった、という点が唯一の収穫ではあるが、そのために好きでもない世界各国のありとあらゆる「性」の生々しい様相を読まされてはかなわない。
 目を背けてはならないことであることは解っているが、不必要に掘り起こすものでもないだろう。
 せめて内容をジイドに関係するものだけに絞ってほしかった(それこそワイルドとの話などをもうすこし掘り下げて語ってくれれば本書の価値は高いものになっていただろう)。
 お好きな人はどうぞ。私はもういい。


■読了日
2010/08/19