十者十様

新参者

新参者

書名:新参者
著者:東野圭吾


■評価:良
  物語:○ 情報:ー 斬新さ:○ 意外性:○ 含意の深さ:○ ムーブメント:○ 構成:◎ 日本語:○
  難易度:やや難 費用対効果:○ タイトル:△
  お勧め出来る人 :家族の物語を求めている人
  お勧めできない人:本格ミステリーを求めている人


■所感
 最近、東野さんは「人情者」に傾倒しているようだ。
 

 本作は有名な「加賀恭一郎」シリーズだが、彼も随分と年をとったものだ。
 何か人生の機微に通じたおせっかいおじさんのような役回りになっている。
 まあ、これはこれで良いのではないかと思う。
 (個人的に本格ミステリーよりも人情者の方が好きだという嗜好の問題は否めないが)


 本作は「お勧めできる人」に記述しているとおり、「家族」の物語である。
 「家族」の数だけ物語があるといっても過言ではないほど、「家族」とは一筋縄ではいかないものであり、十者十様の様相をみせるものである。
 「家族」は人工的な集団でありながら、「全員の合意の元に築かれた集団ではない」(いわゆる「ゲマインシャフト」)、しかし「自分の意志だけで離脱することが出来ない」という不可思議な性質を持っている。
 この性質から、様々な物語を生み出すわけであるが、本作ではこの十者十様の物語を見事に描ききっている。


 そちらに力が入っている分、「ミステリー」の部分はやや拍子抜けな感じとなってしまっているが、本作に「本格ミステリー」を求めているのでなければ問題はないだろう。
 (求めている人は別の作品を読んだ方が良い)


 物語の要素として重要な「意外性」も十分に備えており、なかなか読み応えのある良作であると思う。
 くだらない三文小説を読む暇があるくらいなら、こういう良い作品を読んだ方が良い。


 ちなみに、「加賀恭一郎」といえば、何と言っても鮮烈な形での初登場作品『雪月花』であるが、こちらは「本格ミステリー」としてなかなかの出来になっていて大変お勧めである。

卒業―雪月花殺人ゲーム

卒業―雪月花殺人ゲーム

 いわゆる「学園もの」が好きな人にもお勧め。


■読了日
2010/05/27