まだ30年早い


ハッピー・リタイアメント

ハッピー・リタイアメント

書名:ハッピー・リタイアメント
著者:浅田次郎


■評価:優
  物語:○ 情報:○ 斬新さ:○ 意外性:○ 含意の深さ:◎ ムーブメント:△ 構成:○ 日本語:○ 
  難易度:やや難 費用対効果:○ タイトル:◎
  お勧め出来る人 :江戸時代以降の日本人のエートスについて描かれた現代小説を求めている人
  お勧めできない人:純粋なエンターテイメントを求めている人


■所感
 久しぶりに意義深い小説を読んだ。
 さすがは浅田次郎
 人情ものを書かせたら右に出る者はいない。


 あっけらかんとしたタイトルに反して、内容は非常に含蓄に富んでいる。
 これまでで最も多くのタグをつけたのにはそれなりの理由がある。
 やっぱり、大人の小説はこうじゃなきゃ。


 勿論、肝心の物語の方も十分合格点。
 浅田次郎の作品は、たまに結末が崩れるという難点があるのだが(『蒼穹の昴』なんかはそう)、この小説の終わらせ方は見事だった。
 え?結局3人はどうなったかって?
 それはもう、勉さんが上司に申し立てた3箇条を読めばすぐに解ることでしょう。
 最も労したものが報われるようになっているのですよ、少なくても小説の世界では。


 それにしてもまさか「終身雇用」「天下り」「年功序列」をこの国の歴史と絡めてかくも見事に著してみせたのはさすがという意外に言葉が思いつかない。
 深い歴史理解と鋭い洞察がそれを可能にしているのだろうが、これは並の小説家では真似できませんね。
 彼にはいつか三島由紀夫の伝記を書いて欲しいものである。