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働かざるもの、飢えるべからず。

働かざるもの、飢えるべからず。

書名:働かざるもの、飢えるべからず。
著者:小飼弾


■評価:良
  情報:◎ 新規性:◎ 構成:△ 日本語:○ 実用性:△
  難易度:普 費用対効果:○ タイトルと内容の一致:△
  お勧め出来る人・用途 :資本主義に変わる第3の道を模索している人・新しい経済社会システムのグランドデザインに触れる
  お勧めできない人・用途:働きたくない人・働かないことを肯定するための理論武装をする


■所感
 働きたくない人は、本書など読まずに堂々と働かなければいい。
 その代わり、どのように蔑まれても、文句は言わないことだ。
 (勿論「働きたいが、何らかの事情により働けない」という人はこの対象には入っていない。あしからず)


 本書で著者が提言している新しい経済社会システムは、まさに目から鱗で、今まで誰も提言してこなかったことである。
 共産主義でもない、社民主義ですらない、それどころか、これまでどの思想家や経済学者も考えてこなかった、「新しい」経済社会システムである。


 ベースは「ベーシックインカム」にある。
 (著者の最終的な理想は「ベーシックキャピタル」とあるが、私はこの意見には同意しかねる)
 こう書くと、なんだ、「ベーシックインカム」なんて、ちっとも新しくないじゃないかという指摘を受けそうだが、著者の提言する社会システムの特長は、分配だけでなくきちんとその財源をどこから持ってくるかという点まで、具体的な数字で示しているところである。
 (この点、どこかの国のばらまき合戦とは次元が違う)


 著者の提言は非常に素晴らしいものであるので、例に漏れず私は著者の提言をまとめたノートを作成する予定であるが、その概要を記すと次のようになる。

1人5万円ずつの「ベーシックインカム」を全員に支給する。
財源は、亡くなった人の資産を充てる(相続は認めず、遺産は全て放棄してもらう。生前贈与はOK)
働きたい人だけが働く。その結果その人に富が集中するのは許容する。
が、働かなくても良いと思う人は「ベーシックインカム」で生活をする。


 問題は、「効率的に作れば作るほど儲かり、効率的に作れない人たちは貧しくなるのだが、人びとは効率的に作られた(安くて品質の良い)ものを求めるので、この傾向はますます加速していく」という点にある。
 であるならば、「効率的にものを作れる」人に働くことは任せてしまった方が、世の中全体で考えれば消費者にとってはHappyで、その結果「働かない人」の分は、もうお金を使う必要のなくなった「亡くなった方」からちょうだいすれば良いのではないか。
 そして、この「相続税100%」の社会では、お金は手元に蓄えていても仕方がないので、お金持ちは自らお金を使うか、お金を使うことの出来る(自分の子孫)にお金を渡すので、世の中で無駄にストックされているお金は循環するようになる(ので経済は活性化する)。


 共産主義は、国が「お金の使い方」を決めたから失敗した。
 国のやるべきことは全く逆で、「お金を集め、人びとに配ること」なのであり、「お金の使い方」はそれこそ国民1人1人の方がよほど賢く行えるはずである、という考え方である。


 本書が更に優れている点は、このような平等性の強い社会システム形成にあたって必ず問題になる「エネルギーの分配」についてもしっかりとした提言を行っているところである。
 そこで述べられている提案は、あくまで「ムーアの法則」を論拠にした裏付けのない試論でしかないが、我々はもう「ムーアの法則」が正しかったことを経験している(例えば我々は、携帯電話が短期間の間にあっという間に広まり、しかもそれが考えられないような安価で提供されるようになったという現象を見ている)。
 著者の予言を荒唐無稽と笑い飛ばすには、我々は恐るべき技術の力(梅田さんの言葉を借りれば「チープ革命」)を体験してしまっている。


 このように、本書は、行き詰まりを露呈した資本主義に変わりうる新しい社会を、しかも「空想的」弾イズム、ではなく、「科学的」弾イズムとして提起している。
 個人的には本書は梅田さんの『ウェブ進化論』に匹敵するような啓蒙の書であり、その評価は「優」を通り越して「秀」がふさわしいのではないか・・・と第1部を読み終えるまでは強く思っていた。
 が。
 第2部の対談が余りにもひどすぎた。
 話の内容が、本書の筋から離れてしまっている、という点もいけないが、それ以上に対談相手の僧侶が、あまりにも「非寛容」で多くの人のことを「見下した」尊大な態度をとっている、という点に大いに失望した。
 仏僧ってそんなに非寛容で尊大な人たちだっけ?
 この人の宗派が特別にそうなのか?(大乗を批判しているところをみると、上座部の系統か?)
 とにかく、この人のせいで、本書の評価は台無し。


 でもとにかく、第1部は一読の価値ありである。
 少なくとも今の資本主義が行き詰まりを露呈しているのは事実であり、かといって共産主義がうまくいかないのはもう歴史が証明済みだ。
 では、社民で良いかというと、それもまた疑問である。
 みなに我慢を強いる社会が健全で望ましい社会だとは思えない。
 社民もまた、どこかで誰かを犠牲にして成り立っているのである。
 私は、小飼さんの提案する社会システムがベストだと考える。
 しつこいようだが、とにかく(第1部を)読むことだ。
 その上で、大いに議論をしよう。


■読了日
2010/01/08