傷つく恐れのない閉じた観念の世界から、ようやく現実の世界へ足を踏み出しつつある。
その温度を確かめるように、そろりと足をおろし、ちょっとした痛みに飛び上がってはまたその足を引っ込めるということを繰り返しながら、じょじょにその中につかろうとする。
痛みを引き受ける覚悟はまだ出来ていない。
だが、もう心は決まっている。
どんなに深く傷くことになったとしても、私はそこへ降りていくしかないのだ。
翼は既に失われた。
もう帰ることは出来ない。


「敵を作らないことは簡単さ。その代わり友達も出来ないけどね」
観念の中に引き籠もること。
誰にでも良い顔をすること。
万人に受け入れられるように振る舞うこと。
何か言われたらそれに従うこと。
選ばないこと。
主張しないこと。
そうやって、世界を拒絶してきた。
確かに敵はいなかった。
だが、私はいつも1人だった。


私はもう「選んだ」のだ。
あることを、ある人たちを、ある方向を。
はっきりと突きつけられた、完全なる否定を聞いたとき、私は確信した。


もう、引き返すことは出来ない。
敵が出来た。
拒絶された。
否定された。
受け入れられなかった。
だけど、私もその人にNOと言った。
傷ついた。
痛みを感じた。
不愉快だった。
だけど。


私はもう1人ではなかった。