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- 作者: 村上龍
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1987/08/19
- メディア: 単行本
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著者:村上 龍
想像を遙かに上回る力作だった。
優。
彼がやたら経済に首を突っ込んでいる理由がよく解らなかったが、なるほど、原点はここにあったのかと理解した。
『希望の国のエクソダス』がひどかったので、彼の経済に対する理解には少し疑問を持っていたのだが(失礼)、本書を読んでその認識が誤りであることが判明した(それにしても希望の〜はひどかった)。
これほど的確にこの国の経済の問題点を指摘したフィクションを、私は今まで読んだことがない(単に私の不勉強なだけなのだろうが)。
しかもこの本は25年前に書かれた本なのである(完結は連載開始から2年後)。
本書のこの国の経済の弱点に対する指摘は、バブル崩壊後のこの国の経済の迷走はおろか、昨今のサブプライムショック以降のこの国の経済崩壊をも的確に説明出来る鋭いものである。
これを評するに「慧眼」の二文字がもっともふさわしい。
本書が優れている点は他に2点ある。
1点は、「情報戦争」、それもまさに今の「電子戦争」を描いていることである。
「今」は、当然のことながら書かれた当時からすると「未来」にあたるわけであるから、これは「予言」的なフィクションであったということになる。
そして、その「予言」は、ものの見事に的中している。
これが書かれた当時はまだワープロ
の時代である。
従って、当時の最先端の技術研究、軍事研究からのアウトプットであると推察されるが、それが現在読んでも違和感なく読めるだけのリアリティがあるところに本書のすごさがある。
恐らく「今」から25年後に本書を読んだとしても、それが50年前に書かれた本であることを意識させられるようなことはないだろう。
それは言うまでもないが、本書が本質を押さえているからである。
もう1点は、人間心理に対する鋭い洞察である。
人はどのような時、どのようなことで心を動かされるのか、という点を本書は的確についている。
特に「どのような時に人は『崩れる』のか」という点の描写に於いて、本書は秀逸である。
これも軍事研究からのアウトプットなのだろうが、読んでいて恐怖を感じるほどに著者は人の心の揺れについて的確な描写をしている。
本書から学ぶべきことは、多い。
私は物語、或いは思想を求めて本書を手に取ったが、本書から得られたのは意外にも以上のような深い洞察であった。
肝心の物語の方は、期待していたよりもずっと単調であり、最後まで直線的に進んでしまった感があって少々拍子抜けさせられるところがあったが、頁を繰る手を止めてしまうようなひどいものではなく、それなりに読ませるものであった。
(勿論物語という観点からは不満は残る)
本書は「学習の書」として紐解くのが最適だろう。
物語の質は保証できないが、勉強になることだけは間違いないと断言できる。
読み通すだけの価値がある良書である。