社会学入門一歩前 (NTT出版ライブラリーレゾナント)

社会学入門一歩前 (NTT出版ライブラリーレゾナント)

書名:社会学入門一歩前
著者:若林 幹夫


良書。


だが、「入門一歩前」なんて真っ赤な嘘。
まあ、東大生くらいならこれで入門なんだろうけど、普通の大学生にこれをいきなり渡しても読み通せないって。
今の学生なら尚更。
偉そうに言っているてめぇはどうなんだと言われれば、私も大学1年の時にこんなのを渡されたらとてもではないが途中で投げ出していただろう。
確かに、きちんと説明はなされている。
だが、社会学をこれから始めようとする人に、ヴィトゲンシュタインやメルロ・ポンティは少々ハードルが高くないか?


本書は、入門としてではなく、「入門的知識」の総ざらえとして読むことをお勧めする。
(実際に私もそう読んだ)
ある程度社会学を学んで、しかもちょっと寄り道して、構造主義精神分析ポストモダンなどの思想をかじってみた、というぐらいの背景知識がないと本書を読み進めていくのは大変である。
そうしないと、辞書とにらめっこ、という状態になり、しまいには投げ出してしまうだろう。
理解すべき事項が多すぎる。


だが、これは本書を読み通せるという人に限ってだが、本書はよくまとめられた「入門書」である。
本書を読んで社会学に対して新しい視点を持つのもよし、自分の弱い部分の知識を補填するのもよし、一度社会学に関する知識・理解を整理するのもよし、と様々な用途に耐えうる良書である。
今回私は、東京でお会いする予定の学生さん(社会学専攻)と社会学のお話をするために本書を読んだ(購入以来半年近く放置していた)訳だが、これまで自分が持っていた知識を整理すると共に、新しい知見やものの見方も得ることが出来て非常に有意義だった。


個人的には、本書の著者の立場に共感する点が多かったのでなんとなくデジャビュに近いものを感じていたのだが、最後の方になってようやくその理由が明らかになった。
本書の著者は東大で見田宗介先生の講義を聴いて(それだけではないだろうが、わざわざお名前を挙げているところをみるとその影響は相当大きなものであったと想像できる)、社会学に目覚めた(とまでは書いていないが、それに近い記述はある)ということである。
な〜んだ。
だから、こんなにも多面的で奥が深く、そして思想をバックボーンにした「ほんもの」の、かつ御「自分の」社会学をお持ちなわけだ。
納得。
見田先生の著作を読んだことがある人ならば、この感覚は理解していただけるものと思う。
そうでない方も、「ほんものの」社会学に触れる機会として、是非本書を読んでもらいたい。
ちょっと「入門一歩手前」のつもりで本書をひもとくと足下をすくわれるかも知れないが、根気強く読み通せば、必ずそれに見合った収穫を得ることが出来ることを保証できる良書である。
これは学生さんにとっても一緒。
突破すべき最初の壁として、本書はチャレンジするに値する書である。