あなたはなぜ値札にダマされるのか?―不合理な意思決定にひそむスウェイの法則

あなたはなぜ値札にダマされるのか?―不合理な意思決定にひそむスウェイの法則

書名:あなたはなぜ値札にダマされるのか?―不合理な意思決定にひそむスウェイの法則
著者:オリ ブラフマン、ロム ブラフマン


(現時点で)今年1番の良書。
人間が何故非合理的な判断・選択をし、行動するのかを数多くの研究と事例から解き明かし、それらを法則としてまとめ、さらにこれらの「スウェイ」(目に見えない力に流されて非合理的な行動をとってしまうこと)から逃れるためには、どうすればよいかが簡潔にかつ解りやすくまとまめている。


取り上げられている研究の中には、心理学の教科書に載っているような有名なもの(吊り橋の実験や集団の圧力の実験など)も含まれているが、それらはあくまで個々の断片であり、本書はそれらをいくつかの法則として上手くまとめている。
従って、たとえ既知のことばかりであったとしてもそれらを整理して改めて理解する上で、本書を読むことは非常に有意義であるといえる。
(ちなみに、私は本書で語られていることの3〜4割は聞き覚えのある内容だったが、本書は私にとって非常に有用な書であったと感じている)


本書の中で特に優れていると個人的に思ったのは、「金銭的インセンティブ」について記述された章である。
詳しくは是非本書を読んで欲しいが、「博愛中枢」と「快楽中枢」は同時には機能せず、「快楽中枢」は「博愛中枢」よりも優先して活動するためにそれは「博愛中枢」の働きを阻害し、かつ「快楽中枢」は閾値を超える刺激を与えないと十分なモチベーションを生み出さない(しかもたちの悪いことに、この閾値に限界はなく、さらに閾値そのものが際限なく上がり続けていく)という論考は非常に優れた仮説であると思う。
今まで何となく感じていた「金銭的インセンティブが逆効果になる」現象についてもやもやとしていたものが一気に明瞭になった気がした。


本書では、この他にもいくつかの知っておきたい人間心理の法則が紹介されている。
勿論、理屈で解ったからといって、これらの「スウェイ」から完全に逃れることはできないが、人間が人間であるが故のこれらの「スウェイ」について知ることは、「自分の行動や選択に関してできるだけ後悔はしたくない」という目的を達成するための有用な力となりうる。


本書は特に人の上に立つ人、重要な決定権を持っている人、権力者に、自己批判の書として読んでもらいたい。
だが、「主権在民」の今の世の中では、我々1人1人が権力者であり、他人の人生を左右する決定権を持っているわけであるから、本書を読んで自らに働いている「スウェイ」の力について理解するのは義務であるといっても過言ではない。
裁判員制度も始まることだしね。
「あなたはなぜ値札にダマされるのか?」という軽いタイトル(コマーシャリズムめ)に「ダマされ」ずに、手にとって読んでみて欲しい。