フロイト思想を読む―無意識の哲学 (NHKブックス)

フロイト思想を読む―無意識の哲学 (NHKブックス)

書名:フロイト思想を読む―無意識の哲学
著者:竹田青嗣, 山竹伸二


最後に大どんでん返しがあった。
本書は勿論、小説ではない。
だが、これを形するに「大どんでん返し」以外に適切な言葉が思い浮かない。
どういうことかというと、中盤の山竹氏の退屈な考察(「フロイト思想」を最終的に社会適合の方向に持っていこうとする、もっとも退屈で哲学的でない考察)のため、私の中では本書の評価を「駄本」としようとしていたところ、最終章の竹田青嗣の素晴らしい「エロス論」と出会ったことでその評価が180°ひっくり返ってしまったということである。


では、話は単純で、山竹氏の担当部分は「不可」で、竹田青嗣の担当部分が「優」と評すればよいのではないか、ということになりそうだが、そうはいかない。
まあ、そう言い切ってもいいのだが、竹田氏の考察は、山竹氏の解釈をフロイトの基本的な理解として、その上に(正確には「上」ではなく、「ねじれの位置」という表現の方が適切なのかも知れないが)斬新でラディカルな「エロス論」を構築しているからである。
従って、本書は竹田青嗣の秀逸な論考だけを抜き出して読んでも、あまり意味がない。
始めから最後まで読み通すことで、初めて本書は価値を持つ。


フロイト理論を「現象学」的に再解釈するという本書の試みは成功しているとは言い難い(というよりも、そもそも「現象学」的なるものがきちんと定義されていない。「本質観取」という言葉でフロイト理論の毒を抜き、彼の理論を平凡な適応論に貶めているようにしかみえない)。
だが、教科書的アプローチとは異なる視点からのフロイト解釈ではあるので(たどり着く先は(山内氏の担当箇所に関しては)陳腐でつまらないが)、確かにフロイト解釈の1つとして、勉強にはなる。


竹田氏の最終章の試論には十分な価値があるので、読んで損はしない一冊。
ただし、入門書ではない点に注意。
(帯のイージーな文言に騙されて買った人、ご愁傷様)
フロイト理論は勿論のこと、フッサールラカンレヴィ・ストロースフーコーなどの思想の基本ぐらいは押さえていないと、本書をすらすらと読み進めることは難しい。
(本書を読むための知識程度なら、『図解雑学』の哲学編・現代思想編を一通り読んで理解しておけば十分)
専門家向けではないが、普段からこの手の著書をよく読んでいるような人向けの書籍。
現代思想に興味があり、その中でフロイトをどう理解し、解釈すればよいのかという点に関心がある人は是非読んでみると良い。