書名:機動戦士ガンダムUC (4) パラオ攻略戦
著者:福井晴敏


・・・福井晴敏、大丈夫か?


私は勝手に福井晴敏を「富野を語り継ぐ者」とみなしている(根拠は富野が自身の自信作「ターンエー」のノベライズを福井氏に託したところにある)。
が、第4巻を読んで、そのことに不安を覚えた。
これではただのマニアによる「二次創作」ではないか。
新たな物語の予感がしない。


そもそも設定に問題がある。
プルトゥウェルブ」なんてマニアックな設定を何の説明もなしに突然使い出したら、ZZを知っている人以外は「何のこっちゃ」となってしまう。
(いや、お前はなんで知っているんだ)
しかもこのエピソード、いい加減さが甚だしい。


それから、「オードリー」はやめてくれないかな、いい加減に。
滑稽なだけで物語が締まらない。
何かの効果を狙ったのかも知れないけど完全に外れている。


ミネバのキャラクターも目茶目茶だが、それ以上にフル・フロンタルの性格がおかしい。
まるで某ダメガンダム(確か種ガンダムだっけか?)の仮面の男のような人格破綻者にしてどうする?
間違えてもシャアではないと思うが、仮にシャアなら明らかにキャラクターを間違えている。


リディとバナージの会話も意味がわからない。
いや、著者の意図は解るのだが、不自然さきわまりないので受け入れられない。


そして、極めつけは、サイコミュの乗っ取りだ。
いったいどんな魔術を使うのだろうと思っていたら、本当に「魔術」を使ってしまった。
確かに、既に、精神波に感応して云々という「サイコミュ」の時点でもう「魔術」の域には達しているのだろうが、一応なんとか苦労してリアリティを出そうとがんばって作られた世界観を完全に破綻させるようなシステムを持ち出してどうする?
しらけ。


さんざんこき下ろしたので、1点だけ感心した点を。
展開的に「あ、このキャラは死んだな」と思わせる場面で敢えて生き残らせたこと。
詳しくはネタバレになるので書かないが、富野作品なら間違いなく「殺されていた」キャラを生き延びさせている。
これは新たな展開が期待できる不確実要素だが、同時にここまで書いてこのキャラを生き延びさせてしまったら、後が非常に書きづらくなるのだけれども、福井氏に計算はあるのだろうか。


ともかく、福井氏には一部のマニアにしか通じないような「ガンダム」は書いて欲しくない。
「戦争」に詳しい福井氏にしか書けない「ガンダム」があるはずだ。
まだ物語は始まったばかりであり、修正はこれからいくらでも出来る。
真に富野へのオマージュを示すのであれば、アニメーター富野ではなく小説家富野の物語を受け継ぐのだ。