御社のトップがダメな理由 (新潮新書)

御社のトップがダメな理由 (新潮新書)

書名:御社のトップがダメな理由 (新潮新書)
著者:藤本篤志


得るところの少ない本。


金曜に会社の経営方針説明会があるからって、当てつけで読んだ・・・わけではない。
前著(『御社の営業がダメな理由』)がそこそこよい本だったので、期待して購入したのだ。
しかし、結果から言うと、やや期待はずれ。
(ちなみに前著は勉強のためにレポートにまとめた)


最近の新書のタイトル(及び帯)が中身を表していないのはもはや常識と言える。
本書では、その扇情的なタイトルとは裏腹に、過激なトップ批判などはなされていない。
メインテーマは「アメリカ型経営」を日本の企業が(無条件でかつ中途半端に)導入することの弊害、である。
確かに組織のあり方の決定権はトップにあるので、トップに対する批判ととれなくはない箇所もいくつかあったが、同時にそれはトップだけの問題ではないので(最後の方になると私語をする平社員の批判になっている。とてもではないが、タイトルの「トップがダメ」とは大きくずれる)、やはりタイトルに沿った内容とは言い難い。


本書は日本型経営の見直しと、この国の企業や個人の体質を考えた上で、アメリカ型経営手法の導入がもたらすであろう弊害について述べている。
そしてこれらを考えると、批判されてきた「日本型経営」こそが、この国の企業が採用すべきシステムなのであると強烈に主張している。
これだけ書くと、数は少ないが、最近ちらほら見かける「終身雇用」の効用について説いた本とどこが違うのだ、となりそうな所だが、本書には単純に「日本型経営」を褒め称える本とは明らかに違う特徴が2つある。


1つは、日本企業の駄目な部分(意思決定の遅さ・複雑さ、効率の悪さなど)を「日本型経営」のせいにせずに(とにかく旧来の「日本型経営」が諸悪の根源だという意見が多くを占める中で)、それらの原因は他にあるとしたところである。
つまり、日本の企業の駄目な点についての認識は、「日本型経営」非難側と共通しているのだが、その原因のとらえ方が異なるのである。
例えばその一例として、「島型」の机の配置を上げている。
各人が仕事に集中できず、私語も多く、効率が悪い、というのだ。
このような指摘は氷山の一角に過ぎず、現在の日本企業が抱えている問題を解決するためには微々たる効果しか期待できないが(そしてそれが「本書は得るところが少ないと」と断じた根拠でもあるのだが)、肝心なことは、「何でもかんでもシステムのせい」にし、「とにかくアメリカ型のシステムを導入すれば何とかなる」と考えて闇雲に360度評価やフラット型組織を取り入れることの愚について明確に反論していることだ。
この点については評価できる。


もう1つは、「民主的」であることに対する批判である。
著者は企業経営が「民主的」に行われることに対して猛烈な批判を行っている。
その主張は著者の衆愚思想がかいま見えるので、読んでいてあまり気持ちの良いものではないが(そういえば前著でも2-6-2の法則で、2割の優秀な営業と、6割の凡庸な営業と2割の不良社員という言い方をしていた。あの時には何とも感じなかったのだが、本書では特に「8割」の愚について延々と説いているので特に気になったのだろう)、企業経営という観点では、確かに民主的であってはならない場面が存在する。


以上のように、本書からは学ぶ点がなくはないのだが、著者の独断と偏見のみで書かれている前半3章が残念ながら本書の価値を貶めてしまっている。
前半3章は著者の経験談で、ほとんど愚痴である。
読むに値しない。


以上から、費用対効果(書籍の値段ではなくて、読むのに書ける時間)という点で、得るところが少ない書であると言える。
まあ、気になるなら読んでみると良い。
期待したような効用は得られないことだけは保証する。


それにしても、コンサル界で囁かれている「30年寿命説」、恐ろしい。
しかもその原因は(著者の分析によれば)会社のトップの交代の失敗によるものであるとか・・・。
恐ろしい。