目覚めよと彼の呼ぶ声がする

目覚めよと彼の呼ぶ声がする

書名:目覚めよと彼の呼ぶ声がする
著者:石田衣良


可もなく不可もなく。
読む暇があれば読めばいい程度のエッセイ。
前作(?)『空は、今日も、青いか』は珠玉のエッセイ集だったが、本書はそうでもない。
ところどころ良いことを言っている箇所があるが、はっとさせられるような鋭いコメントには行き当たらず。


読むとすれば以下の3エッセイ。
思春期から青年期に至る過程でのアイデンティティの模索を明解に描写した「『ぼく』の発見」。
強烈な皮肉の背後に著者の強い思いを感じる「『知恵』あるミサイルを」。
図書館の現状を憂い、将来への警鐘を鳴らす「知の箱船はどこへ」。
いずれも一読の価値ある寸評である。


本書の特長は(残念ながらその中身ではなく)装丁である。
表紙カバーは著者の仕事場の風景であるが、どこか都会の一区画を切り取ったような洗練された光景で、こざっぱりとしている。
光の使い方が非常に上手い。
また、どこかの作家や大学教授の自宅のように、ひけらかすかのような書の羅列がなく、嫌みったらしさを感じさせない。
腕のいいカメラマンの作品とみた。


そして何よりも手にとって頁をめくったときの質感。
固くなく、かといって柔らかすぎず、本として理想のめくり具合である。
めくったときの音もいい。
思わず手にとって、持ち帰りたくなるような素晴らしい装丁の本(ああ、出版社にしてやられたなと感じた)。


雨の日に読む詩集だと思えば良いのではないだろうか。
内容は保証できないが(悪くはないけど飛び抜けて良いわけでもないので)、本としては最高の出来だと思う。
手にとってみるといい。
絶対に買いたくなるから。


それにしても。
この頃(せいぜい3年前か)はまだIWGPも崩れず(5巻目くらいか)、その他の本もそこそこ良い本を書いていたのだなぁ、とエッセイからも感じた。
ここ2〜3年のうちに書かれた作品はひどくて読む気が起こらない。
また、以前の良さ(この人の良さは欠落者への配慮だと思う)を取り戻してくれればよいが・・・。
少し望み薄かな。