「歓待」の精神史 (講談社選書メチエ)

「歓待」の精神史 (講談社選書メチエ)

書名:「歓待」の精神史
著者:八木茂樹


うーん。
(またかい)
前半は面白かったのだけど。


「境界」という着目点は秀逸である。
境界神としてのオーディンとロキの行動、根源であるユグドラシルに境界を定める行為が世の始まりで、その境界が滅びるラグナロクは根源への回帰である、という説明は私の認識の枠組みに上手く嵌ってえらく納得させられた。
北欧神話の解釈としては非常に秀逸であるように感じた。


そして、それがレヴィナスに繋がっていくというのもその通りであると感じた(著者は他にフーコーデリダを挙げているのだが、私はこれはレヴィナスの領域だろうと考える)。
いわゆる「他者」論である。
これがまた恐ろしいくらい北欧神話(に対する著者の切り口)とマッチしていて、良い物語となっていた。


が、良かったのはここまでで、それに続く「共同体」論は退屈な内容、「ディープエコロジー」を持ち出すに至っては、何でわざわざそんなありきたりな結論に持ち込もうとするのだと失望してしまった。


要はものすごく面白い切り口で視点は良いのだけれども、提案がつまらない、ということ。
「他者」の歓待の不可能性でやめておけば良かったのに、その延長で安っぽい現代社会批判なんかするから読む人の気を削ぐ。


まあ、単に私の関心がそこにはなかったので退屈してしまっただけなのかも知れないけど(鶴の恩返しの例など諸処に面白い箇所はあったんだけどねぇ)。


タイトルで気になった人、レヴィナスの他者論が解らなくて困っている人は、前半(レヴィナスについて語られているところまで)を読むと良い。
後半はいらない。