予算獲得大作戦

いつか、すべての子供たちに――「ティーチ・フォー・アメリカ」とそこで私が学んだこと

いつか、すべての子供たちに――「ティーチ・フォー・アメリカ」とそこで私が学んだこと

書名:いつか、すべての子供たちに――「ティーチ・フォー・アメリカ」とそこで私が学んだこと
著者:ウェンディコップ, Wendy Kopp, 渡邊奈々, 東方雅美


■評価:可
  情報:△ 新規性:△ 構成:△ 日本語:○ 実用性:△
  難易度:易 費用対効果:△ タイトルと内容の一致:×
  お勧め出来る人・用途 :自らが主となって資金調達・予算獲得をしなければならない人・組織を立ち上げ持続的に運営していくための「力」とは何であるか、どれだけ大変なことかを学ぶ
  お勧めできない人・用途:環境による「学力格差」に興味関心がある人・「格差」を是正するためのヒントをつかむ


■所感
 始めに断っておくと、本書は「教育」の本ではない。
 あくまで著者のサクセスストーリーであり、「自己啓発書」に分類されるたぐいの本である。
 

 確かに本書では「教育」の問題が提起されているが、その問題に対しては著者の「すばらしい思いつき」が唯一無二の解決策とされており、あとの大半は著者がいかにしてその信念を実現化させたか、の話のみが延々と続く。
 著者の「すばらしい思いつき」は、それが実現して実際に大きな「ムーヴメント」となったことからも、正しいものであったことが証明されたと判断できるが、本書の焦点はそのポイントにはない。
 著者が取り組んだ要素が「教育」であっただけで、本書は紛れもなく、あるアントレプレナーが組織を立ち上げて軌道に乗せるまでの苦労話である。


 勿論、著者は(アメリカの)教育について高い関心と深い洞察を持っており、その問題の解決に向けて様々な活動を行って来ているが、いかんせん、話の大半が「いかに資金を集めてこの組織を軌道に乗せていくか」に占められているため、本来著者が成し遂げたかった「教育」のあるべき姿がいったいどのようなものであるか、あまり見えてこない。
 著者の頭は「資金繰り」でいっぱいでとても「教育」の問題をじっくりと考えている余裕などないようにみえてしまう。


 だが、これは非難ではない。
 むしろ現実に「何かを起こそう」と思った際にその主催者はまさにこういう状態になるのがある意味「正しい」状態なのである。
 

 これは「公教育」に携わる人に読んでもらい、強く意識してもらいたいのだが、何かの活動(たとえそれが「ゆとり」という名の活動?であれ)のためにはそれ相応の「資金」が必要なのである。
 「公教育」を任されている人々は本書から、自分たちがいかに「コストがかかる」活動を任されているのか、今一度考えていただきたい。
 彼女の苦労は本来、国民の税金を預かっている「公」が背負うべき問題が機能不全に陥っていることから生じているのである。


 また、本書は自ら何らかの組織を立ち上げようとしている者、特に「世のため人のため」の何か「儲けとは違う軸」で組織を立ち上げ、活動を続けていこうとしている人にとって必読の書であるといえる。
 組織の活動にとってもっとも大切な「お金」の問題が本書に凝縮されているからである。
 どんなに「良い」活動もそれを動かしていく燃料が途絶えてしまっては、続けることが出来ない。
 そのことを肝に銘じておかなければ、あなたを信じてその活動についてきた人全てを不幸にしてしまう。
 起業家は神経質過ぎるほど、自らの組織の「お金」について考え、考え、考えなければならないのである。


■読了日
 2012/01/24