マネーはマナー

28歳からのリアル マネー編

28歳からのリアル マネー編

書名:28歳からのリアル マネー編
著者:人生戦略会議


■評価:秀
  情報:◎ 新奇性:△ 構成:○ 日本語:○ 実用性:◎
  難易度:やや難 費用対効果:◎ タイトルと内容の一致:◎
  お勧め出来る人・用途 :「普通の幸せ」を手に入れたいと思っている人・現実を把握し具体的な人生設計を行うための指針とする
  お勧めできない人・用途:自分の人生を誰かに丸投げしたいと思っている人・楽に生きていく抜け道を探し出す


■所感
 実用に徹した良書である。
 現在の社会システムの中にある限り逃れられない「お金」という問題と対面するために必要な情報と智恵がふんだんに盛り込まれている。
 「人生設計」の教科書であるといっても過言ではないだろう。


 どのような高邁な理想も衣食住という支えなしには成り立たない。
 (衣食住を他者に依存している「賢者」の意見をいったい誰が聞くというだろうか)
 そして、貨幣経済が社会システムの基盤として厳然としてあるこの社会に於いて、衣食住とは即ち「お金」である。
 これはもはや誰にも逃れることの出来ない現実である。


 現実から目を逸らし続けてついに逃げ切ることが出来るなら、それでも良い。
 だが、実際にはそのようなことが出来る者はほんの一握りである。
 逃げ切れなかった場合の覚悟まで決めた上での逃亡を図るのであればそれは止めはしないが、頼むから他の人を巻き込まないようにやって欲しい(ただ、「誰も巻き込まないこと」そのものがそもそもほとんど不可能なのであるが)。


 現実に向き合うことはあまり楽しいことではない。
 だが、いつ現実に「捕まってしまうか」怯えながら生きる方がよっぽど苦しいはずである。
 そうでなければ、「将来への不安」という漠然とした「空気」がこの国の内需を冷え込ませるなどということは起こりえない。
 (だからといって何処かの国のように、いけいけどんどんでとにかく欲望の赴くままに消費していれば万事上手くいくか、といえばそうではないことは、例の問題が如実に示して見せた通り、改めて説明するまでもなく明らかである)


 だから、結局この問題とはいつか向き合うことになるのだが、どうせ向き合うことになるならば、手遅れになる前がいい。
 この手の「面倒くさい」ことは、「一度しっかりと固めておけば、後が楽」というのもよく言われている通りである。
 最低限のメンテナンスと方向修正時の再計算くらいは必要になるが、それでも節目節目でしっかりと対処していれば延々と煩わされ続けることもない。


 本書はまさに今の10代〜20代の人間が読んでおくべき書である。
 何故か。
 この世代の人間は親の世代の貯蓄のおかげであまり「お金」に関する「リアル」と向き合うことなくこの年まで来ているからである。
 しかし、親の世代の貯蓄は無尽蔵ではない。
 今の世代の人間が親の世代の貯蓄を食い潰した時、その時こそが(社会としての)「リアル」と向き合うことになる時であるが、その時になって慌てふためいても、「お金」が突然降って湧いてくるようなことはない。


 個人という視点から見ても、「28歳」という年齢設定は絶妙な設定であると言える。
 職という観点からは、多くの者(3年で3割という指標を考慮に入れても、残りの約7割)が1回目の転機を迎える。
 残るか、移るか、いずれにしてもその決断をするぎりぎりの年齢である。
 また、ライフステージとしても「結婚」という大きなイベントを目前(「マネー」という観点からは2〜5年は「目前」だろう)に控えている。
 どちらも「お金」と密接に関わっているという点で、どちらかを切り離して考えることは不可能である。
 むしろ逆に両者に共通する「お金」という軸から両方を考える方が(あまり楽しいアプローチではないかも知れないが)より「幸せ」を手に入れられる確率を高めることが出来る。


 「お金」は必ずしも「幸福」には結びつかないが、残念なことに世の大半の「不幸」に「お金」というものが関わっているのは誰にも否定できない厳然たる事実である。
 「幸福」を手に入れるというよりは「不幸」を退ける、という意味で、あまり前向きな姿勢ではないかも知れないが、「お金」の問題を考えなければならない。
 (考えたくないのは自由だが、そういう人間は確実に関わった人を「不幸」にするので、人との関わりをあまり持たないでもらいたいものである。関わりたければ考える、関わりたくないのなら、好きなだけ超然としていればいい)


 本書はそのような人生と切っても切り離せない「お金」について考察するための最良のテキストである。
 人生で大事な何かを選択する前には一度目を通して頭にたたき込んでおきたい。


■読了日
2011/01/01