ガラパゴス国家の王子王女

ネオ・デジタルネイティブの誕生―日本独自の進化を遂げるネット世代

ネオ・デジタルネイティブの誕生―日本独自の進化を遂げるネット世代

書名:ネオ・デジタルネイティブの誕生―日本独自の進化を遂げるネット世代
著者:橋元良明, 奥律哉, 長尾嘉英, 庄野徹


■評価:優
  情報:◎ 新規性:◎ 構成:△ 日本語:○ 実用性:○
  難易度:易 費用対効果:◎ タイトルと内容の一致:◎
  お勧め出来る人・用途 :マスコミ関係者、若者向けの商品の企画担当者・最近の若者のメディアに対する姿勢について理解する
  お勧めできない人・用途:(特になし)・最近の若者の行動原理を理解する


■所感
 「テレビへの回帰」
 この一言が本書の価値を表している。

本当か?

 と思った人は是非本書を手にとって確かめて欲しい。
 驚くべき現象に出会うことになるだろう。


 なるほど、「ケータイ」世代、「PC離れ」とは言われて来たが、いつのまに「テレビへの回帰」が始まっていたのだろうか。
 まったく気がつかなかった。
 普段若い人々に接する機会がないので当然といえば当然なのかも知れないが、「メディア」に関する動向は、書籍を中心にはかなり力を入れて観察・考察してきたつもりであっただけに、衝撃は大きかった。

 
 要は、今「ネットの普及でテレビは滅びる」という分析をしている書籍は、リアルタイムの若者(本書で言うところの「ネオ・デジタルネイティブ=96世代」について誤った認知をしているか或いは彼らを全く見ていないかのいずれかということになる。
 尤もマスコミもさるもので、さすがに番組制作の現場の人間は、この新しい兆候に気がつき始めているようだが・・・。


 他にも、

  1. 「今時の」新入社員なのにPCがまともに扱えない(我々の世代よりも我々の下の世代の方が「PC離れ」のせいでPCの扱いに慣れていない、というのはかなりイメージと異なるので衝撃的である)
  2. 言語中心の認知・コミュニケーションから、視覚中心の認知・コミュニケーションへの移行は、本来視覚が発達しているわれわれニンゲンにとって「自然」なことである
  3. 少年少女が学校でテレビの話をしないのはテレビを見なくなったのではなく、テレビを見ながら携帯電話でやりとりをしているので敢えてその内容を学校に来てまで話す必要がなくなったからだ

といった、衝撃的な指摘が満載である。
 

 ただ、残念なのは理論の根拠となるデータがあまり質が良いとは言えない「アンケート」中心であるということ。
 理論的には筋が通っており、周囲で起こっている現象だけを見れば、直観的にもほぼ確実に正しいだろうと確信できるのだが、いかんせん、数字を出さないことには説得力に欠ける。
 着目点と理論の部分だけなら十分「秀」を与えて良い書籍だけに、この点が惜しまれる。
 (しかし、巻末にも記述されているように、この研究は継続して行くようなので、次の研究成果を期待しよう)


 特にマスコミ関係者や、ティーンの消費動向を把握しておくべき人は読んでおくべき1冊。
 それにしても。
 日本では、梅田さんの思い描いた「総表現社会」は実現しそうにないな。
 この類の書籍を読む度に失望の度合いが高まっていくのを感じる。


■読了日
2010/06/04