誰も神には逆らえない

フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略

フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略

書名:フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略
著者:クリス・アンダーソン, 小林弘人, 高橋則明


■評価:秀
  情報:◎ 新規性:○ 構成:△ 日本語:○ 実用性:◎
  難易度:やや難 費用対効果:◎ タイトルと内容の一致:◎
  お勧め出来る人・用途 :これから30年のビジネスの展望についてのビジョンを模索している人・新しい時代に適応したビジネスモデルについて考察する
  お勧めできない人・用途:IT技術を利用したビジネスモデルの構築を考えている人・ITをベースにしたビジネスモデル構築のヒントにする


■所感
 まだ読んでいない人は即購入して読んでおくべき本。
 これから30年のビジネスを占う上で必読の書であることは間違いない。
 最近の名著で言えば『キャズム』や『イノベーションのジレンマ』に比肩すると言って過言ではない。


 ただ、本書に"IT"を過剰に期待するのは大間違いである。
 "IT"はもう既に「あって当たり前」の時代になっている。
 今さら「ムーアの法則」にさかのぼってその正当性を議論するものはいないだろう。
 本書でも"IT"は取り上げられているが、あくまでそれは「前提」であって、議論の的ではない。
 

 強いて関連性の強いキーワードを述べるならば、「コモディティ」の方だろう。
 議論の争点は"IT"「によって」何が起きるかから、"IT"「によって起きたことから」何が起きるか、に移行しつつある。
 その鍵となる言葉として最近注目されているのが「コモディティ」であり、これは本書を理解する上でも重要なタームである。


 本書が「何でないか」の記述が長くなった。
 いや、せっかくだから、最後までこの書評は本書が「何でないか」について述べることに徹底しよう。
 (本書が「何であるか」についての論述は、それこそ巷間に溢れているだろうから)


 本書は思想の書ではない。
 本書において"FREE"は理想の社会でもなく、多くの生産者にとって打ち倒すべき諸悪の根源でもなく、ただただ「必然」である。
 著者はこれを絶妙なたとえで表現している。
 すなわち物が重力に従って落下するように、"FREE"を止めることはできない、と。
 (余談だが、これは竹中平蔵さんの「グローバリズム」に対する姿勢とまったく同じである)


 本書が良書たる所以は、その"FREE"の衝撃についてのレポートの部分ではなく、また、"FREE"に対する人々の様々な反応やそれに対する反論の部分でもなく、"FREE"という世界におけるビジネスモデルの(4つ)フレームワークを示したところにある。
 仮に本書が古典として読まれることになるとすれば(おそらくそうなるだろうと私は確信しているのだが)、このビジネスモデルのフレームワークこそ重要なポイントであると示されることであろう。


 以上の点を踏まえた上で、本書を読まれたし。


■読了日
2010/04/18