書名:情報病――なぜ若者は欲望を喪失したのか? (角川oneテーマ21)
著者:三浦展, 原田曜平


■評価:良
  情報:○ 新規性:○ 構成:△ 日本語:△ 実用性:○
  難易度:易 費用対効果:○ タイトルと内容の一致:○
  お勧め出来る人・用途 :最近の若者(本書では大学生)を真に理解したいと思っている人・最近の若者の消費動向、消費に対する考え方、彼らを取り巻いている環境について理解する
  お勧めできない人・用途:多様な価値観を認めない人・最近の若者を正すための方法を模索する


■所感
 本書を読まなければならないと思ったのは、「最近の大学生は小林よしのりを知らない」という小見出しが目にとまったからである。
 おりしも、田原さんと小林さんの『戦争論争戦』の論点を軸として、「戦争」や「安全保障」について論じようとしていたところであった。もし仮にそうでなかったとしても、自分たちの世代が大きな影響を受けた「小林よしのり」を知らない世代が出てきたということの衝撃は計り知れないものがあり、読んで確かめずにはいられなかった。

 
 で。肝心のインタビュイーであるその大学生(○稲田生!)は確かに「小林よしのり」を全く知らなかった。
 が、それは単に知らなかったというだけで、そこから何か発展した訳ではない。
 ちなみにこの翌日、現役の○大生と忘年会の席で一緒になったが、彼は「小林よしのり」を知っていた。

 
 関係のない前置きはさておき。


 本書は、若者の欲望の変化(単純な「減衰」でもないようだ)の原因として、表題通り、「情報」(の過多)を挙げている。
 本書で提示されているその原因は2つあり、1つは「商品に関する多くの情報、特に価格に対する情報が(インターネットなどを通じて)氾濫しているので、「もっと安く買えるのではないか」というように考えることで消費に歯止めがかかってしまっているのではないか、という仮説である。こちらはどちらかというと些末な事項。


 問題はもう1つの原因の方で、現在の若者が、過度に周囲の友人・知人からの目を意識しており(「空気」を読む)、彼らとのコミュニケーションのための消費(つまりは話題に「置いていかれない」ための消費)に傾いているからではないか、という仮説である。この仮説では、諸悪の根源は、24時間365日朝昼晩全てを完全に友人・知人ネットワークが網羅して相互監視する状態を作り出した、携帯電話だ、という。


 彼らは、中学や高校の時から(或いはもっと早くから?)、周囲に合わせて生きていくことを最重視しており(なぜなら携帯ネットワークにより完全に相互監視しているから)、従って、その消費のあり方も、何か突出して他の人がついてこられないようなものや、他人と関係がなく自分の趣味やこだわり、凝りというものへは決して向かわない。とにかくひたすら周囲に合わせる「ため」の消費をしている。だから、全員に合わせるために、必然的に消費の形が「身の丈にあった」「手近で」「安い」ものに向かい、そしてその習慣を大人になった(?)今も引きずっているのだ、というのがこの対談の方向性となっていた。


 それにしても。「仲良し5人組」の1人でも行けないと可哀想だから、という理由で「海外旅行」ではなく近場の「温泉旅行」に行くのだ、という消費のあり方は、やはり気持ちが悪く、受け入れることが出来ない。
 三浦さんもおっしゃっているように「もう少し孤独になれ」「海外旅行ぐらい1人で行け」を言いたくなる。
 彼らをこのようにしてしまった教育のせいで、この国はこれからますます活力のない、駄目な国になっていくのだろうと改めて思わされた。


■読了日
2009/12/27