サマーウォーズ (角川文庫)

サマーウォーズ (角川文庫)

書名:サマーウォーズ
著者:岩井 恭平


細田守監督のアニメーションのノベライズ版。
恐らく原作に忠実なノベライズだが・・・。
正直がっかり。
何がって、ストーリーがひどい。
作家の力量の問題ではないと思われる。
元がひどい・・・。


設定に紙幅を割きすぎている(全体の5分の1は設定の説明)であるとか、いわゆる「アクション」が地味である、という些細な点が問題なのではない(それらも十分問題ではあるが。本作のターゲットを考えると、そんなに必死になって「アバター」を説明する必要なんてないのでは?)。
肝心の物語が、ひどいのである。


「家族」の物語という。
だが、肝心の家族は「一致団結」するどころか、主人公達のやっていることに興味関心すら抱いていない。
読んでいて、そのことにひたすらイライラする。
印象としては、最近流行している「セカイ」系の外野に家族がくっついている、といった感。
物語は主人公たち事情を知るものの中で完結していて、その周りの家族はお囃子以下の存在でしかない。
これで、「家族」ですか?


がんばってうがった見方をして、これは「TVゲーム」の世界にどっぷりと浸かっている少年がゲームの中で「世界の危機」に一生懸命立ち向かっているのだけど、それはゲームをしていない周りの人から見るとよくわからない、滑稽な姿にしか見えない、という状況を皮肉っているのだ、とか、大半の「普通の」人にとって、「世界の危機」なんてあまりにも遠い世界のどうでも良いことで、日々の生活や各人の「スモールワールド」の方が大事なのだ、という態度に対する批判なのだ、とか、更にはもっとうがった見方をして、これはコミュニケーションがいかに難しいかを大袈裟に描いてみた作品なのだ、といった解釈が出来なくもない。
が、やはり無理がありすぎる。
そうとう「がんばら」ないと、そんなメッセージを導出することができない。
それはもう、物語としては完全に失敗である。


ストーリー展開もひねりが無く、終わりまで一直線。
意外性もどんでん返しも心動かされるようなエピソードも何もなし。
せめてエンターテイメントとして楽しめるものであれば・・・。


前作(『時をかける少女』)の出来は素晴らしかった。
予告編の映像もなかなかよく出来ていただけに、期待したのだが、肝心のストーリーがこれではちょっと・・・。
いくら腕のいい監督でも、これを良作に仕上げるのは無理があるんじゃないかな。


この作品に興味関心があって期待している人ほど、このノベライズは読んではならない。
恐らく気勢をそがれるから。
(繰り返すがそれは作家の腕のせいではなく、原作の物語の質の問題だと思う)
本作は、とにかく映像作品だけを見て、それの出来映えを評した方がよいだろう。
たぶん・・・駄目だと思うが。
(少なくとも私の感性はこの物語を完全に受け付けなかったので、映像でこの評価をひっくり返すのは絶望的。そもそももう映像を見るモチベーションが・・・)