幻想の島・沖縄

幻想の島・沖縄

書名:幻想の島・沖縄
著者:大久保 潤


良書。
「沖縄問題」を考える上で必読の書。
沖縄県民だけでなく、日本国民全てが読むべき本。
それは、単に「沖縄」を考えるため、という意味ではない。
本書には、様々な問題を考える上で、重要な示唆、データが溢れんばかりに詰まっている。
(おかげで、付箋を大量に消費した。300頁に、200枚くらいは使っている)


本書がまず提起する問題は、なんといっても、「沖縄問題」である。
そのうちまたノートを作成する予定であるが(ちょっとこれは大変そうである。なにせ付箋の数が尋常ではない)、以下に章立てを示す。


第1章 特別な配慮
第2章 官高民低
第3章 暮らしにくさの理由
第4章 アメとムチ
第5章 殺す側の視点
第6章 広がる副作用
第7章 沖縄VS日本という構図
第8章 自立へ

少々同じ言い回し、論点の重複はあるが、基本的にはこの章立ての通りの内容となっており、それぞれの章ごとにはっきりとした主張がある。
そしてそれらの主張は、著者の独断と偏見ではなく、きちんとしたデータに基づいてなされているのである。
わずか数年の間に、これだけの調査を行った著者の調査力・注意力(時事問題をしっかりとウォッチしている)・洞察力には脱帽させられる。
素直に尊敬する。


著者の主張は単純にして明解であるが論理的で説得力がある。
第1章では、沖縄への「特別な配慮」、使い切れないほどの補助金・振興策が沖縄の産業構造・財務構造をいかに駄目にしてきたかということをデータを交えた鮮やかな論理で展開する。
第2章では、沖縄特有の「官民高低」「お上頼み」のひどい実態を、同じくデータを用いて提示している。
第3章では、「沖縄の暮らしにくさ」について述べている。これは沖縄を体験した人にしか解らないが、沖縄は観光に訪れる分には良いのだが、移住するのは非常に困難な、「暮らしにくい」土地なのである。
第4章では、第1章で指摘された基地と「振興策」との悪循環のうち、「アメ」の部分、即ち「基地経済」と「補助金政策」の部分をクローズアップして取り上げている。この中では、如何に「アメ」が常態化し、しかも機能しなくなっているかということが示されている。
第5章は、本書をただの「沖縄問題」の書ではなく、それ以上の、大きな問題を考えさせられる書たらしめている重要な章である。本章での著者の考察は、いい意味でジャーナリスト的ではない。どちらかというと想像力を働かせるノンフィクションライターのそれである。特に、集団自決問題において、「なぜそれは起きたのか」という問いと共に、それが回避された事実から、「なぜそれを避けることができたのか」という問いが、大事である、という指摘は、読む者をはっとさせる非常に秀逸なものである。
第6章は、第4章を受ける形の章となっている。ここで語られているのは、「補助金漬け」で自助努力をする気概を失ってしまった、現在の沖縄の醜い、あるがままの姿である。この現実をしっかりとみつめることから、沖縄再生への道が開けてくる。
第7章も、第5章と同様、本書を示唆に富む良書たらしめている重要な章である。ここで著者は、「本土憎し」という空気が、本来安全保障という大きな問題を利権の獲得という焦点のずれた国内問題に矮小化されてしまっているという重要な指摘をしている。そこで見落とされてしまっているのは何か、一体誰が得をして、誰が損をしているのか。著者の鋭利な批判を冷静に考慮する必要がある。ここでは、植民地統治の「分断政策」にまんまと嵌りこんでしまっている、お人好しな沖縄県民の愚かしい姿を見せつけられることになるが、親切な隣人の耳の痛い忠告としてしっかりと受け止めなければならない。これは沖縄県人だけでなく、日本国民全体が理解しておかなければならない重要な点である。
最終章である第8章では、では「自立」への道としてどのような具体的な方向性が考えられうるか、に関して、著者の意見が述べられている。本章もまた、本書を良書たらしめている重要な章である。ここでは著者のジャーナリストとしての本領が発揮されている。本章で紹介されている沖縄県人の様々な「自助努力」の萌芽は、これまでの絶望的な沖縄の現状を打破しうるのに充分な可能性を秘めたものとなっている。筆者の提示する提案は、そのまま政策提言として検討出来る水準の質の高いものである。県政、市町村政はこれをまじめに検討すべきであると考えるが、どうか。


以上に示したように、本書は、単に「沖縄問題」を考えるに留まらず、「道州制」の導入の声が大きくなってくる中で、どのような地域構想を打ち立てていくかという問題、そして、日米同盟におんぶにだっこの状態の、現在のこの国の安全保障はどうすべきか、という問題、差別や偏見、格差の問題といった国政レベルの大きな問題を考える上での重要な視点、示唆、考察、批判、データを提供している、稀に見る良書である。


沖縄の、補助金依存体質、自助努力の欠如、低い教育水準、被害者意識、似非左翼思想、形骸化した反基地運動、それら全てに大きな嫌悪感を抱いていたが、なかなかそれをしっかりとした理論で批判した書に巡り会うことが出来なかった。
また、このような沖縄批判は良くきかれるが、「ではどうすればよいか」に関する前向きで実現可能性のある提言・対案もこれまで聞いたことがなかった。
本書は、そのいずれの条件も満たしている。
これこそ私が求めていた「沖縄の未来のための本」である。


本書の指摘は正しい。
高校まで沖縄で育った、生粋のウチナーンチュが保証するのだから、間違いない。
本書には、私が嫌いな沖縄が、しっかりと描かれている。
しかし、そこから目をそらさず、しっかりとそれを見つめることからしか、現在の泥沼を抜け出すすべはない。
沖縄の、いやこの国の未来のために、読んでおくべき本。
何度でも繰り返すが、国民必読の書である。