ライフワークの思想 (ちくま文庫)

ライフワークの思想 (ちくま文庫)

書名:ライフワークの思想
著者:外山 滋比古


良書。
とても30年前に書かれた著書とは思えない。
文体が簡潔で論旨が明快。
流れるような日本語で書かれており、読んでいて心地よい。
さすがに入試現代文必出の評論家である。


難点をあげるとすれば、2点。
1点は、本書のまとめ方と編集のされ方、及びタイトル。
1章は確かに「ライフワーク」について語られており、2章まではどうにかその範囲内として読むことが出来るが、残りは完全に「文化論」になっている。
これを1冊の評論としてまとめることの意義、及びそれに「ライフワークの思想」と名付けるセンス、いづれも理解できない。


もう1点は著者の女性に対する偏見。
「女性的」という表現を無批判に使用しているが、これではフェミニストから槍玉に挙げられてしまう。
30年前ではそれでもよかったのかも知れないが、今だとかなり保守的な発現として受け取られてしまう(悪い意味で)。


それにしても、著者の洞察の深さには敬服する。
品性もにじみ出ており、まさに「教養人」という言葉がふさわしいお人であると思った。
その「教養人」ぶりは、村上先生を彷彿とさせる(どちらが先輩にあたるのかは不明。年齢はこの人が上らしいが)。


イギリスを例に島国の思考癖について述べた第3章、ことばに関する鋭い洞察から、当時の教育批判を行っている第4章もよいが、なんといっても素晴らしいのは第1章の「フィナーレの思想」と第2章の知的生活考である。
この、日本人の人生観の貧しさ、その産み出しているものの貧困さを批判した第1章と、発見と言葉の関係、忘れることの必要性を説いた第2章は是非読んでもらいたい。
生き方や学問に対する姿勢がまったく変わってしまう、それぐらいのインパクトをもった評論である。
出来れば高校生、遅くとも大学生までには読んでおきたい。
資本主義というシステムに組み込まれてしまった後では遅い。
だが、人生に遅すぎるということはない。
今からでも本書(の第1章及び第2章)を読んで自らの生き方について再考してみると良い。


日本人必読の書の1冊であることは間違いないだろう。