デザインを科学する 人はなぜその色や形に惹かれるのか? (サイエンス・アイ新書)

デザインを科学する 人はなぜその色や形に惹かれるのか? (サイエンス・アイ新書)

書名:デザインを科学する 人はなぜその色や形に惹かれるのか?
著者:ポーポー・ポロダクション


良書。
専門家が読むといろいろと難点が挙げられるのだろうが、素人が読む分には十分。


内容もしっかりとしている。
特に評価すべきは、以下の3点。

  1. 通説だけでなく、それに対する批判も書いてあること
  2. 自分の意見と研究業績からの引用をしっかりと分けて書いてあること
  3. アンケート調査の調査対象を正確に記述し、またそこから導き出された結果を「絶対的なもの」として断言していないこと

勿論研究書ではないので限界はあるが、「科学的であろう」という態度が感じ取れるので非常に好感が持てる。


もっと「軽い」本だと思い込んでいた(失礼!)ので、脳の認知に関するある程度しっかりした説明から始まったのは意外だった。
この人は本当にデザインを「科学」しようとしているのだと感じた(実際にはまだまだまだまだ遠いが。それは著者自身も認識している。その謙虚さがまたよい)。
認知心理学、或いは脳科学を少なくともかじったことのある人にとってはあまりにも基礎的な話から始まるので、なんだ、またあの話か、と思わされるかも知れないが、きちんと展開しようとしている理論の基盤を説明することは(ことこのような「新書」という大衆向けの本においては)必要なことである。


肝心の「デザインを科学する」という点に関しては、「形」「レイアウト」の部分はなるほどと思わせるような内容だった。
その根拠はともかく(乳児の感じ方から敷衍する説明には少々無理があるように感じた。勿論「科学」としてそれを見た場合のはなし)、確かに例示されているように「もう少し近づけると〜なります」というように感じるのである。
理屈だけでなく、実物で示されると説得力も増す。
たとえそれが錯覚や思い込みであっても、それが「錯覚や思い込み」を誘発する、というまさにその点において十分それは「確からしい」と言うことが出来るのである。
人は「錯覚」と「現実」を区別することなど出来ないのだから。


ただ、「色」に関する考察に関しては、納得する部分とあまり納得出来ない部分に分かれた。
「色」はやはり人によって感じ方や好みが大きく異なる部分なのだろう。
それでもいくつか興味深い示唆を得ることができた。


残念ながら本書は「デザインの科学」の本として読むことは出来ないだろう。
だが、デザインを考える上で重要なポイント、示唆、法則などが詰まっているという点で、本書には十分な価値がある。
自らデザインを行う人にとっては必読の書であり、そのデザインを利用することになる人々にとっても必読の書である。
つまりは、誰もが読んでおいた方が良い本、ということになる。
正しさを求めてはならない。
より良い方向へのヒント、そして何よりも楽しさを求めて本書を取るならば、十分にその目的は達成されるであろうということを保証する。