新装版 うつから帰って参りました

新装版 うつから帰って参りました

書名:新装版 うつから帰って参りました
著者:一色 伸幸


駄本。
個人的に気に入らなかった。
たぶん、自分に似ているからだろう。


才能のある人の闘病記は読んでいていらいらする。
ただのルサンチマンかも知れないが(まして著者はプロの物書き)、それを差し引いても、不快感は残る。
なんだろう、己の才能故の無知というか。
持てる者の持たざる者に対する理解の欠如というか。
もう少し、もうほんのちょっとでいいから、謙虚であって欲しかった。
素直であって欲しかった。
願わくば、己の書いたものに頼らずに病気と向き合って欲しかった。
観念で解決するような問題ではないのだから、この病気は。


観念劇で脚色することで、この病が「人間性」をどれだけ著しく損なわせる恐ろしい病であるか、そして自死という形での結末を迎えることのある「死に至る病」であるかが、薄まってしまっていると感じる。
(私はこのブログでもっとひどい観念劇を展開しているが、1.私は「うつ」と診断されていない(ある種の神経症ではあるが) 2.このブログは(ほとんどそれに近いエントリもないことはないが)「闘病記」と銘打ってはいない という2点で、著者とは立場を異にしている。逆に言えば、それが私の自由な記述を可能にしている、ということでもあるが)


うつは病気である。
そして、ここが大事なのだが、自分の力ではどうにもならない
本書で著者は自力救済をいっさい訴えてはいないが、本書自体が著者自身が作り出したキャラクタに取り憑かれたという記述及び、著者自身が自らの作品の中に回復の兆しを見いだしたなど、あたかも自分発自分着のように読める構成になっているため、誤解を招きやすいように思う。
病気の原因は、神経伝達物質の異常、脳の異常、過度なストレス、(著者の場合は)薬物の過剰摂取などであり、回復に最も貢献したのは1に家族を始めとする周囲の人々の支え、2に医者の処方およびその処方薬の効果、である。
本人の観念劇などおまけ以外の何ものでもない。
人間は、自分が思っている以上に、ただの動物である。


うつについて知りたければ直接それについて書かれた本を読むことを薦める。
(例えば以前書評を書いた『SEのためのうつ回避マニュアル』など)
本書は1人の人間のドラマとして読むべきであり、間違ってもうつを知るための本として読んではならない。
そしてその視点から見たとしても、本書は特に良いシナリオだとは思わない(まあ、一応ノンフィクションなので、「物語」として期待するのも間違っているのだが。そう言う意味では中途半端)


・・・私の目はルサンチマンによって曇っているだろうか?