フィンランドの教育力―なぜ、PISAで学力世界一になったのか (学研新書)

フィンランドの教育力―なぜ、PISAで学力世界一になったのか (学研新書)

書名:フィンランドの教育力―なぜ、PISAで学力世界一になったのか
著者:リッカパッカラ, Riikka Pahkala


駄本。
読む価値なし。


日本ではさんざん騒がれているかの国であるが(この国の国民は皆揃いも揃って「ランキング」が好きだからね)、当のかの国は「超然」としている。
それは当たり前で、国が自国民の教育に注力するのは当然のことだし、彼らは当たり前にやるべきことをやっているだけで何か特別なことをしているつもりはないのだ。
彼らが特別なのではなく、日本が今「異常」なのだということを早く認識しなければならない。


最近の○HKの討論番組(私の所感は以前のブログに書いた)でも竹中氏が強調していたが、我々は今、先人の努力と創意工夫の結果築き上げてきたものを単に食い潰している。
今のままだと、早晩にこの備蓄を使い果たしてしまい、この国は世界のお荷物たる劣等国になってしまうだろう。


話が大いにそれた。
(というよりまともに書評だけ書いたことあったっけ?)


本書が駄本であるゆえんは2つある。

  1. 本書は初等教育に携わる(しかもまだ経験が浅い)教師の主観に基づいて語られたインタビュー記事である
  2. 本書はあくまで、1現場教師の声にしか過ぎず、しかもそれはかの国の教育の特徴や教育政策の本質を説明できていない


1.に関しては、現状の説明が必要であるが、この国の初等教育の水準は実は世界でも希にみるほど高い、という事情がある。
「学力」という点でも、人格形成も含む総合的な観点からも、これは世界の他の国と比較してなんら見劣りしない水準のすばらしいものである。
考えられる要因は数多くある(この国では江戸時代の寺子屋に象徴されるように、初等教育に関してはそこそこの歴史の積み重ねがある、初等教育段階では求められる「学力」の幅が小さいので「平等性」を重んじるこの国の伝統や慣習から考えてもこれは得意とするところである、などなど)が、本書に関して言えば、かの国からやってきた著者(インタビュイー)自身がこの国の教育を高く評価しているという点からこれは明らかである。
問題は、中等・高等教育の質の低さなのだ。


2.は一般論で、本書を読んでも結局どうしてフィンランドの教育が「世界一」なのかがまったく解らない、ということを指す。
まあ、苅谷氏が指摘するように、皆が騒ぐほど、かの国の教育そのものが特別で優れているものではないので、ある意味これは当然のことではある。
しかしそれでも、「教員の資格を修士号以上とする」など具体的に教育の質を高める教育政策は行われてきたのであり、またしっかりと予算が投下されているからそのようなことが可能になっているのである。
教育問題を(マクロ的視点で)考えるときに大事なのはそういうところなのだが、本書ではそれは期待できない。


著者自身は、良識を持ったごく普通の(元)教師であり、当然語られる内容は常識の範囲に収まるような退屈なことばかりである。
本書を読んで「衝撃」を受けているようでは、よっぽど教育に対するものの見方が偏った間違ったものになっているということである。
勿論、その「当たり前のこと」を実行に移すことは容易なことではないのだが・・・。


フィンランドの教育ってどうなっているんだろう」、という目的なのであれば他にも良書はいくらでもある。
例えば以前書評を書いた、苅谷氏の『欲ばり過ぎるニッポンの教育』。
猫も杓子も「フィンランド」と騒ぐこの国の思考停止教育界に対する冷静で客観的な批判を行っている良書である。
本書の存在意義としては、「フィンランドの教師ってどういうことを考えているんだろう」という好奇心を満たすぐらいしかないが、まあ、現場の教員ぐらいしかそういうことは考えないだろうし、ただの思いつきに過ぎないから、それだけのためにわざわざ読む時間を割くに値しない本であることは間違いない。