営業と詐欺のあいだ (幻冬舎新書)

営業と詐欺のあいだ (幻冬舎新書)

書名:営業と詐欺のあいだ
著者:坂口孝則


良書。
あまりに良い本だったので、しっかりした書評を書き、また、出版直後の時期だったので、誤植をご指摘させていただくメールを著者にお送りしようと考えていた。
だが、残念ながら時機を逸した。
誠残念ながら、通常の書評とさせていただく。


本書は詐欺の手段について、その「ひっかかってしまう」ポイントの本質について説明した良書である。
肝心の本質を一言で表すならば、「人は自分のことを『特別』だと思っており、そのことをつかれると弱い」、となる。
まさにこれは人の心の弱さの核心を突いた洞察だと思う。


本書の冒頭で著者は、「これから紹介する手法は一般に『詐欺』とされるようなものであるが、営業は慈善活動ではないので、このような手口を(ただし合法的な範囲で)活用すべきである」というような、冷めた発言をしているが、これは著者の照れ隠しだと思う。
実際には著者は本書で紹介したような「詐欺」の手口を毛嫌いしており、そのような行為を平気で行う人に憤りを感じ、それにひっかかってしまう人たちを何とか啓蒙したいと考えているように、少なくとも私は感じた。
私にはどうしても本書には、著者の熱い思いが込められているような気がしてならないのである。


「冷たい頭に熱いハート」というのが、経済学者に必要な資質と言われているが、これは何も経済学者に限ったことではない。
私はどのような分野においても、この「冷たい頭に熱いハート」が必要であり、著書などからそれを感じ取ったときにはその人のことを尊敬する。
本書からもそれが感じ取れた。


実用的であると共に、自分を冷静に見つめ直すきっかけを与えてくれる希に見る良書である。
万人にお勧めしたい一冊。